カゼは万病のもと
「ハックション!(ずぴーっ)」
「ったく、お前ときたら・・・。どーせ、夏物の布団のままで寝てたんだろ?え?」
「・・・う(図星)」
ここ数日、急に秋の気配が深まって肌寒くなってきたのだけれど、あたしはまだ夏物のパジャマとお布団で過ごしていた。
そうしたら案の定、カゼをひいちゃって・・・。久しぶりに丸一日お休みのアスマと出掛ける約束をしていたのに、こうして寝込んでしまっているのだった。
もっと早く連絡しておけば良かったのだけれど、間に合わなくて、アスマはあたしの家まで迎えにきてくれたのだ。
「で、医者には行ったのか?」
「うん。お薬、もらってきた」
あたしの枕元には、病院でもらってきた薬の袋が置いてあった。
「なんだ、まだ飲んでねぇのか?」
「うん・・・。食後に飲めって書いてあるから」
「もう昼すぎてるじゃねぇか」
「だって、まだゴハン食べてないんだもん。・・・ケホ」
そろそろ買い物行こうかと思ったときに寝込んでしまったので、我が家の食料事情はかなり厳しいものだった。すぐに食べられるものといったら、カピカピに乾いた食パンが一枚・・・。
とてもじゃないけど、喉がイガイガしている状態で食べる気にはなれなかった。
「食うモン食わなきゃ、治らねぇだろうが」
だって、と反論しようとしたら、ギロッと睨まれた(汗)
アスマは、忍という職業柄のせいか、おおざっぱな性格からは想像できないほど体調管理はきちんとしている。ま、煙草は例外らしいけど。
当然あたしにも同じコトを求めるから、今回みたいに不注意からカゼをひいてしまったりするとこっぴどく怒られてしまうのだ。
「あんまり食欲ないし・・・」
「なんか作ってやるから、ちゃんと食え。台所、借りるぞ」
ええーっ?!アスマが料理なんてできるのっ?
アスマはウチでよくゴハンを一緒に食べていたけれど、アスマが台所に立ったところなんて、一度も見たことがなかった。

あたしが作ったゴハンをパクパク食べてくれるけれど、おいしいともマズイともアスマは言わない。
まぁ、『マズイ』なんて言われたら、絶対ケンカになっちゃうけどね。
アスマがあたしにゴハンを作ってくれるなんて、雨降るかも・・・。
「出来たら呼ぶから、それまで寝てろ」
「う、うん・・・」
ああ、あたしってば、いったい何を食べさせられるんだろ・・・?(冷汗)
「オイ、出来たぞ。食えるか?」
「あ、うん・・・」
いったいどんなモノを食べさせられるんだろう・・・?
『おいしくない』なんて言ったら怒られちゃうだろうしなぁ。食べて具合の悪くなることはない・・・よね?
ちょっとドキドキしながら、あたしはゴソゴソ起きだして、キッチンへと入っていった。
そこにはエプロン姿のアスマ・・・(笑)
見慣れない姿に、思わずプッと吹き出しそうになっちゃったけど、そこはガマン。だって怒られちゃうもん。
「オラ、さっさと食え」
「うん・・」
そこには、トロリとよく煮えたおかゆと、黄金色のたまご焼き、そして青菜のごまあえがキレイに盛り付けられていた。
「うわ・・・」
「冷めないうちに食えよ」
「あ、いただきます」
あたしは慌ててお箸を手にとって、食べ始めた。
「おいし・・・」
おかゆはトロリとしていて、ちょうどいい塩加減だった。そして、たまご焼きは、あたしの好きな味。
おだしがきいていて、ちょっと甘めの味付け・・・。あたしが作ったたまご焼きを
「なんだ、コリャ」
と言って、アスマは食べなかったのに。甘いたまご焼きは、彼にとっては邪道らしい。
でも、今日アスマが作ってくれたのは、ほんのり甘いたまご焼き・・・。
あたしは、なんとなくちょっと元気になったような気がした。
『食欲がない』なんて言ったことを忘れたみたいに、パクパク食べていると、
ジャー!
と、何かを炒める音が聞こえてきた。
ん?と思って見ていると、アスマがまた何か作っているらしい。
「なに作ってるの?」
「ああ?昼飯は食ったんだが、また腹が減っちまってな」
そう言うと、アスマは慣れた手つきで何かを炒めてる。
チャーハン作ってるのかな?・・・パラリ、とごはん粒が宙を舞ってる(汗)
なんでそんなに料理上手なのーっ?!
あたしがまじまじと見ているのに気づいたのだろう、アスマは小皿にすこしチャーハンをよそってくれた。

「ほら、味見」
「あ、ありがと。・・・おいしいっ!」
「そ、そうか?」
アスマがちょっと照れたように笑った。でも、ホントにアスマの作ったチャーハンはおいしかった。
「なんで、そんなに料理できるの?」
「これくらい、常識だろ」
いや、全然常識じゃないと思うんですけど・・・(汗)
アスマは、自分の作ったチャーハンをモリモリ食べている。・・・あたしのエプロンをつけたまま(笑)
お腹もいっぱいになって、薬も飲んだあたしは、ベッドに横になっていた。
せっかくアスマと一緒に過ごせるのに、カゼなんかひいてる自分がちょっと情けない。
カチャカチャと、キッチンから洗い物をする音が聞こえてくる。アスマが片付けてくれてる。
・・・普段も手伝ってくれたらいいのにな。
「なんだ、寝ちまったのか?」
「ううん、起きてるよ」
一回り小さい、あたしのエプロンをつけたアスマがガラスのお皿を持ってきた。
「じゃ、これ食え」
「なぁに?」
お皿にはリンゴがのっていた。
「カゼにはビタミンだろ」
「・・・・・・ウサギ・・・クマがウサギ・・・・・・クマなのに・・・ウサギ」
ぶはっ、とあたしは思わず吹き出してしまった。
お皿の上には、可愛くウサギに剥かれたリンゴ・・・。
みんなから「ヒゲクマ」って呼ばれてるアスマが、どんな顔してリンゴをウサギに剥いていたのかと思うと、どうにも笑いがとまらないのだ。
「プッ、クククッ!おかしいーっ!クマなのにウサギなんて」
笑いすぎてお腹がよじれるほどだったあたしは、アスマがじろりとこちらを睨んでいることに気づかなかった。
「・・・ちったぁ大人しくしてろ」
「へ?」
クィとあごを持ち上げられたかと思うと、アスマにくちびるをふさがれた。
「ん・・・」
――突然だけど、あたしは煙草がキライ。一度も吸ったことがないくらい。
でも、煙草の味のするアスマのキスはキライじゃない。
煙草を吸ったことないあたしが、煙草の味を知ってるのは不思議な気がする。
アスマにキスされるたびに、そう思う・・・。
「続きはカゼが治ってからな」
と、アスマはニヤリと笑った。
「・・・バカ。カゼがうつってもしらないわよ」
熱のせいなのか、恥ずかしいからなのか、ちょっと赤くなったあたしをふっと笑って、アスマはもう一度あたしにキスした。
「人にうつしたら治るんだろ?」
自分にうつるなんて、これっぽっちも思ってないクセに・・・。
アスマの気配を感じながら、いつのまにかあたしは眠ってしまっていた。
その2日後、アスマがカゼをひいて寝込んだ。
「・・・アスマ先生でもカゼひくんだ(意外・・・)」
「オニ・・・つーか、ヒゲクマの霍乱?(どーせロクでもねぇコトして、うつったんだろ)」
「ちょっとヒドいんじゃない、それ(でも当たってるーっ)」
などと、第10班の子供たちは口々に噂していたらしい。
あたしはお見舞いの品にリンゴを選んで、アスマの家に向かっていた。
――そしてこの日、あたしは貴重な教訓を得ることになる。
『教訓:カゼをひいたヒゲクマの半径1メートル以内に近づかないこと』
あたしはまたカゼをひいて、寝込んだ・・・。
【あとがき】
『アスマ生誕祭』さまのコラボ企画で書かせていただいたものをアップ。
管理人さまおふたりのご好意で、イラストもアップさせていただきました
v(※禁無断転載!)
ギリギリ滑り込みセーフで投稿・・・ゴメンね、碧さん(汗)
アスマ先生って、お料理できるのかなー?カカシ先生はなんでも器用にこなしそうですが(笑)
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
2004年11月1日