いつも隣に。
「オイ、まだか?」
「すみません、もうちょっとで終わりますから」
アスマはイライラした様子で、タバコをふかしていた。受付の中忍たちはそれを不思議そうに見ていた。
いつものアスマはもっと悠然とした雰囲気で、イライラしているところなど見たことがなかったからだ。
「・・・お待たせしました!確かに報告書を受領いたしました」
アスマは報告書が受理されたことを確認すると、チラリと壁にかかった時計に目をやった。
「ゲッ・・・もうこんな時間かよ。じゃあな!」
任務お疲れさまでした、と言う前にアスマの姿は掻き消えていた。
「・・・」
「なぁ、悪かったって」
「・・・・・・」
「遅れたのは悪かったが、任務が長引いちまってさ」
「『任務』って言えば済むと思ってるんだ・・・」
ヤバイ・・・マジで怒ってるぜ(汗)
今日は部下達とDクラスの任務だったのだが、ちょっとしたトラブルが発生して、との約束の時間に2時間も遅刻してしまったのだ。
任務受付所に報告書を提出したあと、瞬身の術を使っての部屋までやってきたのだが・・・。
当のはむぅっとくちびるを尖らせて、リビングのテーブルへ突っ伏していた。
『明日はアスマの誕生日だから、盛大にお祝いするね!』
『ありがとよ。明日はガキどもとの任務だから、早く戻ってこれると思うぜ』
『ホント?じゃ、腕によりをかけて料理作って待ってるね!』
そんな会話を交わしたのは昨日の夜のこと。正直、誕生日なんて自分でも忘れていたくらいなのだが、が覚えてくれていたことが嬉しかった。
それで、夕飯までには帰ってくると約束したのだが・・・。
「おい、機嫌直せよ」
「・・・」
キッチンのテーブルにはアスマの好きな料理の数々が並べられていた。はもともと料理をよく作ってくれていたが、これだけの料理を作るにはかなり時間がかかっただろう。
それに加えて、テーブルの中央には大きなバースデーケーキ・・・。生クリームにイチゴという定番のモノだが、これもの手作りらしい。
『おたんじょうび おめでとう』と書かれたチョコレートのプレートが飾られているのは良いだろう。だが、プレートの後ろの空いたスペースにチョコレートペンで、
『ヒゲクマのバーカ!』
と大きく書かれていて、アスマは苦笑いした。約束を破った自分に腹を立てているのだろう。
「おい・・・」
リビングのラグの上に腰を下ろし、背を向けたままのを無理やりこちらを振り向かせる。
「やだ」
は顔を背けようとしたが、アスマはそれを許さない。
「・・・」
泣いていたのか・・・。
頬に残る微かな涙の跡――おそらくは帰ってこない自分を心配していたのだろう。
アスマは普段、に帰る時間をあまり告げないようにしている。告げたとしても『夕方』だとか『夜』だとか、大まかな時間帯しか言わない。
長期短期に関わらず任務には帰還予定日時が設定されているが、その通りに帰ってこれるとは限らない。
子供たちとのDクラス任務でも、今日のように何かトラブルが起こって帰還が遅れるのは日常茶飯事だ。
○○時に戻るとに告げたとして、その時間より少しでも遅れたらきっとは心配する。だからこそ、アスマはいつも大まかな時間しか告げないようにしていた。
それが今日はめずらしく『夕食の時間までに戻る』と言ってしまったせいで、なかなか帰ってこないアスマをはかなり心配したのだろう。
「悪かったな」
アスマはそう言って、をギュッと抱きしめた。はアスマの腕の中から逃れようとしてジタバタしていたが、アスマの腕の中から逃れることなどできるわけもなく。は諦めたのか、アスマの胸に頭をもたせかけた。
「・・・ヒゲ熊のバカ」
「へーへー、何とでも言いやがれ」
アスマは抱きしめたの頭のてっぺんに自分のアゴをのせた。
は女性としては標準くらいの身長だが、背の高いアスマにすると小さく思える。
あーあ、なんで俺は、こんな女に参ってるんだろうな・・・。
頭のうえでアゴをグリグリ動かすと、下から『痛いっ』という声が聞こえてきた。ぶつぶつ文句を言っているのが聞こえてくるが、アスマはを抱きしめたままだ。
取り立てて美人というわけではない・・・本人には恐ろしくて、とても言えないが。機嫌が悪くなるとすぐにプッとふくれるし、ワガママなところだってある。
それでも・・・こうして自分の身を案じて、涙を流していたりする。意地っ張りなは泣き顔など決してみせようとはしないが、涙の跡まで消せはしない。
「――あのケーキ、全部食べきってよね」
「ハ?俺ひとりでか?」
「そーよ!あのケーキ焼くのにどれだけ時間かかったと思ってるのよ?
ホントは余ったらチョージ君たちにあげようと思ってたけど、アスマがなかなか帰ってこないから
腹立ってチョコレートで落書きしちゃったの。
そんなケーキあげられないでしょ?」
だから責任とってよね、とプリプリしながら腕の中のが言う。
「ああ、わかった、わかった。全部食うよ」
「えっ?!」
言った本人でありながら、は驚いてアスマの顔を見た。
「食えって言ったのはお前だろーが」
「けど、アスマ、甘いものなんか食べないのに」
「誕生日くらい、いいだろ。それに・・・」
「それに?」
「お前がせっかく作ってくれたのに、ガキどもにくれてやるのはもったいねぇだろ?」
「!」
カァーッとの頬が赤く染まっていくのを、アスマはニヤニヤしながら見つめていた。それに気づいたは、赤い頬をしながらアスマを睨みつけた。
「来年は遅れないようにするから、機嫌直してくれよ」
「来年・・・」
アスマの言葉に驚いたは、マジマジとアスマの顔を見つめた。
「ん?なんだ?」
「・・・来年も・・・・・・あたしはアスマの隣にいてもいいの?」
「ったく」
アスマは深いため息をつくと、両手の握りこぶしでのこめかみをグリグリと押した。
「っ!?い、いたたたっ!何すんのよ!?」
「お前が全然わかってねぇからだろ」
「何をよ?」
押されたこめかみが相当痛かったのだろう、は涙目になりつつアスマを睨みつけた。
「・・・俺の隣にいるのはお前しかいねぇだろーが」
恥ずかしい事言わせんなよ、と呟く声が聞こえたかと思うと、はアスマに強く抱きしめられていた。
忍びの約束がアテにならないことはよく知ってる。けれど、それでもアスマは言ってくれたのだから・・・。
言葉で答えるかわりに、はアスマの大きな身体をギュッと抱きしめた。
「来年の誕生日に遅刻したら、ローソクのかわりにアスパラをケーキに立てるからね?」
「それは勘弁してくれ・・・」
心底嫌そうな顔をしたアスマには笑って言った。
「――お誕生日おめでとう、アスマ」
「ああ、ありがとよ」
アスマは穏やかな笑みで応えた。
【あとがき】
『カカシ&アスマ&ハヤテ生誕祭’06』さまに投稿させていただいたアスマ先生創作です。
アスマ先生を書くのは超久しぶりでした(笑)というか、書けると思っていませんでした・・・(^^;)
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
2006年12月23日