おはよう
カチッ、カチッ。
「・・・・・・」
は聞きなれた音で目を覚ました。けれど、昨夜は眠るのが遅かったせいか、頭は目覚めているのだが目が開かない。
「悪い、起こしたか?」
「ううん・・・」
「まだ早いぜ。もうちょっと寝てろよ」
目をこすりながら、はようやくベッドで起き上がった。
「もう起きる・・・。おはよう、アスマ」
「・・・オハヨ」
さっきの音はアスマのライターの音だった。アスマは寝室の窓を少し開けて、そのそばで煙草を吸っていたのだ。
もうちょっと煙草を減らしてくれるといいのにとは思うのだが、煙がの方へこないように気遣ってくれているのは嬉しい。
「じゃ、朝メシにするか」
「あ、あたし、作るよ」
「いいって。お前はシャワーでも浴びてこいよ」
アスマは笑って煙草を消すと、さっさとキッチンへと行ってしまった。
はう〜んと大きく伸びをして、立ち上がった。
寝室の壁際には引越しのダンボールが詰まれたままになっていた。たぶん今日一日では片付かないだろう。
ヤレヤレと小さくため息をついたの目に入ったのは、ドレッサーの上に置かれた白いブーケ・・・。
――あたし、アスマと結婚したんだ。
結婚式は昨日だった。たくさんの友人や家族が祝福してくれたけれど、が緊張しすぎていたせいもあるかもしれないが、どうにも夢の中にいるような現実感に欠けていたのだ。だが、友人達が作ってくれた白い花々のブーケを手に取ると、ようやく実感が湧いてくるような気がした。
ベーコンが焼けるいい匂いがキッチンに漂っていた。
そろそろ卵を割りいれるかと思っていると、ペタペタと足音を立ててがやってきた。きっとシャワーを浴びて、素足のままキッチンへ来たのだろう。
「スリッパなら玄関脇にあったぞ」
「素足の方が好きなんだもん。・・・あ、目玉焼きよりオムレツがいい!」
「お前な・・・俺がオムレツなんか焼けると思ってんのかよ」
「上忍のくせにできないの?」
「関係ねぇだろ、そんなの。目玉焼きかスクランブル、それ以外は却下!」
えー?と不満げにはくちびるを尖らせたが、結局今朝の朝食はベーコンと目玉焼きになった。
「今日は子供たちと任務だったっけ?」
こんがりとキツネ色に焼きあがったトーストにバターを塗りながらは聞いた。
「ああ。悪いな、休みがとれなくてさ」
「ううん、仕方ないよ。それにあたしだって、そんなに休めないし」
は三代目の秘書をしていた。仕事以外ではぽやんとした雰囲気の女性だが、仕事になるとかなりの切れ者で三代目からは篤い信頼を得ていた。
「ったく、三代目の嫌がらせとしか思えねぇ」
アスマの呟きにはクスクスと笑った。は三代目から実の娘のように可愛がられており、そのハートを射止めたアスマは愛娘を掻っ攫っていく悪者なのである。
「でも、みんなよく集まってくれたよね〜!招待しておいて何だけど、正直ビックリしちゃった」
「ああ、そうだな」
三代目の傍で仕事をしているは当然のことながら特別上忍・上忍に友人が多かったし、自らが上忍であるアスマも同じだった。そんな二人の結婚式には里の主だった特別上忍・上忍たちが勢ぞろいしたのである。
『ちゃーん、なんでこんなヒゲクマのお嫁さんになっちゃうの〜?!』とはカカシ。
『アスマさんにはもったいないような気がしますが、お幸せに。ゴホ』とはハヤテ。
みんな大切な友人だ。忙しい任務のあいだを縫って、お祝いに来てくれたのだ。
「あたしたちって、幸せ者だよね」
「そうだな」
初めてに逢ったとき、アスマは『こんなぽやんとした女が三代目の秘書だって?』と思った。けれど、最初は友人として、そのうち恋人として付き合うようになってから、は『本当に大切なこと』を知っている女だとアスマは思うようになっていた。
そして、いつしかその想いは、と家族になりたいという風に変化していった。
上忍という常に死と隣りあわせの仕事を選んだのは自分だが、ともすればその死の恐怖に負けて自暴自棄になってしまう可能性もある。実際、アスマはそういう忍びを何人も見てきた。
『おはよう、アスマ』
友達から恋人へ変わった日の朝、ちょっと照れくさそうに『おはよう』と言ったをアスマは忘れられない。そして、そんなを独り占めしたいと思ったことも・・・。
――コイツがそばに居る限り、俺は大丈夫だ。
何の根拠もなかったけれど、アスマはそう思った。そして今、は自分の隣に居る。
朝食を済ませたアスマを玄関先まで見送りにきたはふふっと楽しげに笑った。
「なんだ?」
「なんかちょっと不思議な感じがしたの。
アスマとあたしって『家族』になったんだなーと思って、ね」
「・・・そうだな」
アスマはフッと笑みを浮かべた。
「なあに?」
「いや・・・まぁしばらくは『恋人』でいいんじゃねぇか?」
アスマは、きょとんとしているの頬にくちづけた。
「っ!?」
「じゃ、行ってくるぜ」
「・・・行ってらっしゃい」
赤い顔をしてこちらを睨みつけているが可愛らしくて、アスマの口元は笑みを浮かべていた。
『おはよう』
何気ない朝のあいさつ――それを愛しい人に言える幸せをアスマは知っている。
【あとがき】
『カカシ&アスマ&ハヤテ生誕祭’06』さまに投稿させていただいたアスマ先生創作です。
アスマ先生創作2本目。2本目が書けた自分に超驚きでした(笑)
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
2006年12月23日