優しい手を持ってる。
「雨か・・・」
オレはぼんやりと暗い空を見上げた。
雨はキライじゃない――すべてを洗い流してくれるから。
戌の面を外し、天を仰ぐ。冷たい雨が降り注ぎ、オレの身体の熱を奪っていく。
流れる水が血の穢れを洗い流してくれる。全てを忘れさせてくれる。
そんな気がした。

「・・・帰ろう」
帰ろう、あのひとのところへ・・・。オレがオレでいられる、あの場所へ。
「参ったなぁ・・・」
そぼ降る雨の中、オレは困り果てていた。それというのも・・・
「みゃぁああ」
足元に擦り寄ってくる可愛らしい子猫のせいだった。
まだ人気のない早朝、オレはの家へと急いでいた。本当なら昨夜遅くには戻れるはずだったのに。
――心配しているかもしれない。
遅くなるかもしれないとに連絡はしてあったけれど、オレの足は自然と早くなっていた。その上、降りだした雨がオレの足取りをさらに早くさせていた。
の家に行くなら公園を突っ切って行った方が早いと、ガランとした公園に足を踏み入れたまでは良かったんだけど・・・。ふと何かの気配を感じて足を止めてしまったのが運の尽き。
ガサ、ガサガサ・・・。
「みゃぁぁああ」
現れたのは、ぐっしょりと雨に濡れて痩せ細った一匹の子猫。
人懐っこいのか、子猫は小さな鳴き声をあげながら、オレの足元にすりよってくる。
ぐっしょりと雨に濡れ、痩せ細った子猫が可哀想になって、オレはつい手を伸ばしてしまった。

「みゃぁ」
子猫は嬉しそうに喉をゴロゴロと鳴らし、オレの手に身をすりよせてくる。
「親猫はどした?ん?」
「みゃ?」
猫が人語を解するワケもなく、子猫はきょとんとオレを見上げている。
「ひとりぼっちなのか、おまえ・・・」
喉の下をくすぐってやると、ゴロゴロと甘えた声をだす。ずいぶん人懐っこいところを見ると、誰かに飼われていたのかもしれない。
「捨てられちまったのか、おまえ・・・」
子猫はずぶ濡れになっていたが、毛並みも綺麗だし、翡翠色の瞳も美しい。こんな可愛いコを捨ててしまえる人間がいるのかと思ってしまう。
ま、オレは犬やら猫やら動物好きだから、余計にそう思うのかもしれないけどね。
「うーん、ウチは忍犬がいるからなぁ・・・。おまえなんか、一口でパクッ、だな〜」
「み、みゃ〜(汗)」
なんだか子猫がビクッとしたような気がして、オレはクスリと笑ってしまった。
「冗談だよ〜。ウチのコたちは、みんないいコばっかりだから、おまえをイジメたりしないよ」
「みゃ〜」
子猫は可愛いけれど、はてさてどうしたものか・・・。
「おまえを連れて帰ったら、に怒られちゃいそうだな」
「みゃ〜」
「でも、連れて帰らなかったら、もっと怒られちゃうんだよね」
「みゃ〜?」
連れて帰ったら、きっとは『どうして拾ってくるのよ?』と怒り、連れて帰らなかったとしたら『どうして置いてきちゃったのよ?』ともっと怒るのが目に見えている。
こんな雨の中ずぶ濡れの子猫を置き去りにしてきたなどと言ったなら、に部屋から叩き出されるのは確実だ。うーん、そんな事態は避けたいし・・・。
「みゃ?」
「仕方ないか・・・。ほら、おいで?一緒に帰ろう」
オレはベストのジッパーを下ろし、子猫をそっと懐にいれた。
「さ、帰ろうか」
「みゃお」
子猫を揺らさないように、さっきよりもスピードを落として歩く。しとしとと降る雨の音だけが聞こえていた。
「ん?」
ふと懐を覗いてみると、子猫はすやすやと眠っていた。頭を撫でてやると、耳がピクピクと動いた。
まず帰ったら、はオレにお小言をくれるんだろうな。それから、おまえを抱き上げて、優しく撫でてくれるだろう。
の手は優しくて、とても暖かいんだよ?おまえにもすぐわかるだろうけど。
あの手に触れられると、辛かったコトや哀しかったコトがどこかへ行ってしまうような気がするんだ・・・。
ガサガサと忍服のポケットを探って、キーを取り出す。カチャリとドアを開けると、玄関にが仁王立ちになっていた。
うわ・・・怒ってるよ・・・ヤバ・・・(汗)
「た、ただいま・・・」
「――おかえり」
あちゃー、かなりご機嫌ナナメだな・・・。でも、おまえを見たら、機嫌なおしてくれるかもしれない。
「みゃ〜お」
目を覚ましたのか、オレのベストから子猫がひょっこり顔をだした。
「あのさ、ちょっとそこで友達を拾っちゃってさ・・・」
ほら、オレの言ったとおりだっただろ?の手は優しくて、暖かいんだ・・・。
オレがオレに戻れる、たったひとつの場所なんだ。
「〜、オレも抱っこv」
子猫を抱っこしたが、ものすご〜くイヤそうな顔でオレを見た。ふぅ、と小さくため息をついて、は言った。
「・・・こっち来なさい」
の細い腕がオレの身体にそっと回されて、ギュッと抱きしめてくれる。
「・・・おかえり」
「ただいま」
――オレは、オレの場所へようやく帰ってきた。
「みゃぁ〜」
子猫が不満そうな鳴き声をあげた。カリカリと、オレの足に爪を立てる。
「はオレのなの!」
「・・・猫にヤキモチ焼いてどうするのよ」
は呆れ顔だ。でもねぇ、はオレのなの!
「ほら、朝ゴハン食べよ。今日はね、ナスのお味噌汁とたまご焼きだよ」
「ハーイv」
「ねこちゃんにはミルク温めてあげるね〜」
「みゃぁ〜」
「ね、?ゴハン食べたら、首輪買いに行こっか」
「うん!名前考えなきゃね」
「そうだね。なんて名前がいいかな、子猫ちゃん?」
この雨が止んだら、手をつないで出掛けよう。手をつないでふたりで出掛けよう。
ずっとずっと、あなたがオレの手を取ってくれますように。
ずっとずっと、あなたの手を取るのがオレでありますように・・・。
【あとがき】
『カカシ生誕祭』さまのコラボ企画で書かせていただいたものをアップ。
管理人さまおふたりのご好意で、イラストもアップさせていただきました(※禁無断転載!)
普段は音楽からおはなしをイメージすることが多いのですが、今回は イラストからおはなしを考えるというのが新鮮でした♪
タイトルを『Rain』でアップしていただいていたのですが、同名の創作がすでにありましたので
変更させていただきました。
上のイラストは『キミノイイトコロ』の碧さま、下のイラストは『Farce.』の深雪さま。
お二人の素敵サイトさまへはリンク集のイラストからどうぞ♪
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
2004年10月1日