Sweet Lullaby




ボク、ねこです。
おねえさんと一緒に住んでます。
おねえさんはとっても可愛くて、とっても優しいんだ。ボクはおねえさんがだーい好き

今日と明日はおねえさんのお仕事がおやすみ。
おそうじが終わってから、ボクと一緒にいっぱい遊んでくれたんだー♪
そして、いまはちょっと休憩タイム。
おねえさんはちょっと甘めのカフェオレを飲みながら、大好きな本を読んでる。
そしてボクは、そんなおねえさんの膝の上に丸くなっていた。
ときどき、おねえさんはボクの背中をやさしく撫でてくれる。
今日は雨がふってて外に出られないから、一日中おねえさんと一緒なんだ
・・・アイツさえ、あの銀色アタマさえ、おねえさんちにやってこなければ・・・!


あの銀色アタマ――名前は『はたけカカシ』というらしい――は、おねえさんの恋人だ。
ときどき、おねえさんちにやってきては、おねえさんにまとわりついて、邪険に扱われてる。
けど、それでも嬉しそうにしてるんだよね・・・。
ヘンなヤツだと思わない?・・・でも、おねえさんはアイツが大好きみたいなんだ。
「ん、どうしたの?誰か来た?」
ボクの耳がピクピク動いたことに、おねえさんが気づいたみたいだ。
覚えたくなかったのに、覚えてしまった足音が近づいてきた。
ちぇ・・・っ!今日はおねえさんを独り占めできると思ったのに!!
ちゃ〜ん
「ちょ・・・?!苦しいってば!」
銀色アタマは部屋に入ってきたかと思うと、いきなりおねえさんに抱きついた。
「みゃーっ(怒)」
「離してってば!」
お、おねえさんのキック炸裂!
「ひ、ひど・・・ちゃんてば・・・」
ガックリとひざをついた銀色アタマ。へへんっ、いい気味♪
「お茶でも淹れてあげるから、おとなしく座ってなさいよ」
そう言うと、おねえさんはキッチンへ行ってしまった。
「ちぇ・・・久しぶりに逢えたっていうのにさー」
銀色アタマはブツブツ言いながら、おねえさんが座っていた隣に腰を下ろした。
いつもの額宛もマスクもとってしまって、その顔が露わになる。
左右の瞳の色が違うのはボクと一緒。でも、赤と黒より、ボクの青と緑の方がキレイだよね〜?
カチャカチャとカップがぶつかりあう音がしたかと思うと、おねえさんが戻ってきた。
「ん?何それ?嗅いだことない匂いがする」
「ハーブティーよ。リラックス効果があるんですって」
「へぇ・・・」
銀色アタマはカップを受け取ると、クンクン匂いを嗅いでいた。そして、ひとくち飲んだ。
「・・・ちゃん、オレ、フツーのコーヒーのほうがいいな」
どうにも味が気に入らなかったらしい。へへっ。
「これから眠るのに、カフェインなんて取ってどうするのよ」
「眠る?オレ、昼寝なんてしないよー?」
「――いつ起きたの?」
「えっ!?い、いつだったかな〜?」
おねえさんがジロリと銀色アタマを睨みつける。銀色アタマはすぐに降参!
銀色アタマはああ見えて、ホントはすごい忍者ってウワサだ。
でも、おねえさんには超弱いんだよね〜。これが『惚れた弱み』ってヤツなのかな?
「えーと、おととい、だったかな」
おねえさんの表情をうかがいながら、銀色アタマがポツリと答えた。
「ったく・・・。ベッドのシーツ替えてあげるから、すぐ寝なさい」
おねえさんがシーツを替えるために立ち上がろうとしたのを、銀色アタマは慌てて引き止めた。
「えー?オレひとりで寝るの?」
「あたしは眠くないもの。それに、この本の続きが気になってお昼寝なんかできないし」
「でもさー」
不満タラタラの銀色アタマに、おねえさんはちょっと怖い顔をしてみせた。
「ちゃんと寝なきゃダメ」
「・・・ハーイ」
銀色アタマは、おねえさんに『メッ!』ってされてた(笑)
・・・ボクもときどき『メッ!』ってされるんだけど・・・(汗)
「じゃ、シーツ替えてくるから」
おねえさんはそう言って、膝のうえに陣取っていたボクを抱き上げようとしたんだけど。
「わわっ!ちょっと待って、ちゃん」
「え?」
銀色アタマの手がスッと伸びてきたかと思うと、ボクを抱き上げてた。
「ちゃんと寝るからさ」
「?」
「ココで
銀色アタマはおねえさんが何か言うまえに、おねえさんの膝の上にぽすん、と頭をのせた。
「ちょ・・・っ!?」
「いいなぁ〜、ちゃんの膝枕
ボクは銀色アタマの手の中から逃げようとジタバタしてみたけれど、がっちりと抱っこされていて、どうにも抜け出せない。
「・・・別にいいけど。膝枕なんて、寝づらくない?」
「ひとりで寝るほうがヤダッ!」
おねえさんは深いため息をついた・・・。
「しょうがないなぁ・・・」
銀色アタマはちょっと嬉しそうに笑って、ボクをぎゅっと抱きしめた。
コラーッ!離せーっ!
「みゃーっ!(怒)」
「オマエも一緒に寝ようよ〜」
・・・誰が寝るかっ!!
おねえさんがクスクス笑ってる。ボクは銀色アタマに抱っこなんかされたくないやいっ!
さっきまでボクを優しく撫でていてくれたおねえさんの手は、銀色アタマのあちこちハネた銀色の髪を愛しそうに梳いていた。
「目が覚めたら、晩メシ外に食べに行こうか?ちゃん、何が食べたい?」
「うーん・・・天ぷら?」
「それはヤダ」
げんなりした銀色アタマの声に、おねえさんはまた笑った。
「冗談よ。考えておくから、はやく寝て」
「ハーイ」
というヤケに素直な返事がするが早いか、規則正しい寝息が聞こえてきた。
「・・・疲れてるクセに無理しちゃって」
銀色アタマの腕の中から抜け出そうとジタバタしてるボクに、おねえさんが言った。
「オマエもちょっと付き合ってあげて」
「みゃーっ(怒)」
「そう言わずに、ね?」
「・・・みゃぁ」
おねえさんが手を伸ばして、ボクのあたまを撫でてくれた。
・・・ちぇ。仕方ないか、おねえさんがそう言うんなら・・・。
アンダーシャツ越しに、トクントクン、と規則正しい心臓の音が聞こえてくる。
銀色アタマの腕の中はなんだかとても暖かくて、ボクはいつのまにか眠ってしまった。



・・・ん?
なんで、真っ暗なんだろう?まだ夜なのかな?
ボクは伸びをしようと思ったけれど、がっちり抱っこされていることに気づいた。
・・・ああ、そうか。
銀色アタマの昼寝に付き合っちゃったんだ、ボク。
「・・・え!?」
いきなり、銀色アタマがガバッと起き上がった。
「うわ!急に起きたらビックリするじゃないの」
「い、いま何時っ?!」
「えーと、8時くらい?」
おねえさんは灯りをつけようとして立ち上がろうとしたけれど、よろめいて立ち上がれなかった。
「足しびれちゃって立てないの。灯りつけてくれる?」
「う、うんっ!」
銀色アタマが灯りをつけると、おねえさんは眩しそうに目をパチパチしていた。
「ご、ごめんっ!オレ・・・」
「いいの。あたしなら、足がちょっとしびれたくらいだもん。疲れはとれた?」
「うん。つい気持ちよくて、寝すぎちゃったみたい・・・」
そう言うと、銀色アタマは申し訳なさそうに頭を掻いた。おねえさんはクスクス笑った。
「ね、お腹空かない?何か作ろうか」
今から出かけるのも面倒だしね、と言って、ようやく足のしびれがとれたのか立ち上がった。
「あ、オレも手伝う!」
おねえさんと銀色アタマは並んで台所に立ち、夕食の準備を始めた。
ボクには、銀色アタマがおねえさんのジャマをしているようにしか見えなかったけど、おねえさんはなんだかとっても楽しそうだった。
いつもよりもにぎやかな夕食を済ませて、おフロもさっさと済ませて、おねえさんはベッドに入ってしまった。
「え〜、もう寝ちゃうの〜?」
「だって、あたしはお昼寝してないもん」
でも、寝すぎというか、タップリお昼寝をした銀色アタマはどうにも眠れないらしい。
しばらくは隣で眠っているおねえさんの寝顔をおとなしく見ていたけれど、静かにベッドを抜け出した。


「オマエも眠れないのか?」
銀色アタマは隣のリビングで、ビールを飲みながら深夜放送の映画を見ていた。
ボクは夜行性なのっ!
「ちょっと待ってな」
銀色アタマはそう言ってキッチンへ行ったかと思うと、ミルクの入った小皿をもってきた。
「オマエもちょっと付き合えよ」
銀色アタマはちょっと笑って、ビールの缶を上げてみせた。
・・・フン!ミ、ミルクに釣られたわけじゃないんだからねっ!
ピチャピチャとミルクを舐めているボクの頭を銀色アタマが撫でている。
「今日は失敗しちゃったよなぁ・・・。寝不足だったせいもあるけど、ちゃんの膝枕が
 あんまり気持ちよくてさ」
メシ食いに行こうって約束も破っちゃったしなぁ、とブツブツ言ってる。
ちゃん、怒ってなさそうだったけど・・・」
ビールを一口飲んで、おつまみのピーナツを口に放り込む。
そうして30分くらい経っただろうか。銀色アタマは全然眠くならないらしい。
銀色アタマは2本目のビールを開けていた。
ガタンッ!
寝室のドアがいきなり開いた。
「カカシ!?」
ちゃん?」
おねえさんが寝室から飛び出してきたかと思うと、ソファに座っていた銀色アタマに抱きついた。
「・・・ちゃん?どうしたの、怖い夢でも見た?」
「・・・」
おねえさんは小さく震えているみたいだった。こんなおねえさんを見たのは初めてだった。
「・・・黙っていなくなっちゃったかと思ったの・・・」
銀色アタマは震えているおねえさんを抱きしめて、安心させるように背中をポンポンと叩いた。
「オレがちゃんを置いて、どこか行っちゃうわけないデショ」
おねえさんのおかあさんは小さい時に病気で死んじゃって、おとうさんは忍者で任務中に死んじゃったんだって。
古い写真を片付けているときに、おねえさんがボクに教えてくれたんだ。
子供だったおねえさんが眠っている間に任務に出かけて、それっきり戻ってこなかったんだって。
・・・おねえさんは、たぶんそれを思い出したんだろうな。
「どこにも行かない」
「うん・・・」
「黙ってどこかに行ったりしない。ちゃんを一人にしたりしないよ」
「ん・・・」
「こんな可愛いコを一人にしておくワケないデショ」
「もう、カカシったら・・・」
銀色アタマに抱っこされてしばらくすると、おねえさんの震えは止まったみたいだった。
ボクがその足元にすりよっていくと、おねえさんはそっと手を伸ばして、ボクを撫でてくれた。
「ゴメンね。ビックリさせちゃったね・・・」
「にゃー」
銀色アタマはおねえさんを抱っこして寝室へ行くと、ベッドへそっと寝かしつけた。
「今度はオレが腕枕してあげる
おねえさんは微かに笑って、おとなしく銀色アタマの腕に頭をのせた。
「・・・大丈夫だよ」
「うん・・・」
しばらくすると、低い歌声のようなものが聞こえてきた。
「・・・子守唄・・・?」
「そう。前にちゃんが歌ってくれたデショ。オレはあんまり上手じゃないけどさ」
ボクの耳にも途切れ途切れだったけれど、銀色アタマの歌う子守歌が聞こえてきた。
――穏やかな、優しい声。
「ううん・・・。あたし、カカシの声、好きだもん・・・」
おねえさんは怯えた子供みたいに、銀色アタマにすがりつくようにして抱きついていた。
「さあ、もう眠って」
「うん・・・」
「明日はどこかへ出掛けよう」
「ん・・・」
しばらく銀色アタマの歌う子守唄が聞こえていたけれど、それも聞こえなくなって、
おねえさんの穏やかな寝息が聞こえてきた。


ちぇ、明日はお留守番決定か・・・。
つまんないけど、これでおねえさんが元気になるなら、まぁいいか。
けど、おねえさんを悲しませたら、ボクが許さないんだからねっ!
――よし、銀色アタマをやっつけるために、明日はトレーニングだ!
ねこパンチとねこキックと・・・それから、お隣の先輩ねこさんに新技を教えてもらおう。

ふぁぁ・・・なんだか眠くなってきちゃった。
明日にそなえて、ボクもそろそろ寝ようかな・・・。




【あとがき】
投稿サイト用に書いた作品です。お題は『腕枕』。途中まで『膝枕』と間違っていたのはヒミツ(笑)
ウチのアンケートでは意外に人気のにゃんこ・・・。カカシ先生相手に「キーッ!」となってるにゃんこを 書くのは楽しかったりして(笑)

最後まで読んでいただいてありがとうございました。
 2005年7月10日