Memory




「ええっ?!ちゃんてばお出かけしちゃうの!?」
「うん」
おねえさんは、至極アッサリと頷いた。



あ、ボク、ねこです。おねえさんちに住んでます。
今日は日曜日で、おねえさんのお仕事はお休み。
日曜日はいつもよりちょっとお寝坊さんのおねえさんだけど、今日は早起き。
お友だちと映画に行くんだって。つまんないけど、ボクはお留守番・・・。
カチャリ。
玄関のカギが開く音がした。あれ?銀色アタマがやってきたみたいだ。
銀色アタマ――本当の名前ははたけカカシ。ボクは認めたくないけど、おねえさんの恋人・・・。
いつもいつも、ボクとおねえさんの間に割り込んで邪魔するんだよね(怒)
「オハヨ、ちゃ〜ん
「あれ、カカシ?どうしたの?」
「どうしたの、じゃないデショ。任務がキャンセルになったから、可愛い可愛いちゃんに逢いにきたんだよ〜
「あたし、これから出かけるんだけど」
「ええっ?!ちゃんてばお出かけしちゃうの!?」
「うん」
そういえば、とおねえさんの服装がいつものジーンズではなくて、可愛いスカートをはいていることに気づいたらしい。
「え〜?」
銀色アタマは不満タラタラ。来た時はスキップしそうな足取りだったのにね〜?ちょっといい気味だったりして(笑)
ちゃ〜ん」
「そんな声出してもダメ。先に約束しちゃったんだもん」
「そんなぁ・・・」
もし銀色アタマにシッポと耳があったなら、これ以上ないってくらい垂れてるだろうな。
クゥーン、って鳴き声が聞こえてきそうだもん。
「帰るんだったら、ちゃんと戸締りしておいてね?」
「・・・ハイ」
おねえさんはそう言うと、慌しくお出かけしちゃった。後に残されたのはボクと、うなだれた銀色アタマ。
・・・ん?
もしかして、ボクは銀色アタマとお留守番するハメにおちいったってコト?


ゴロン。
ゴロン、ゴロ〜ン。
ボクの目の前を、銀色のフワフワがあっちへ行ったり、こっちへ来たり。
「つまんない」
銀色アタマは自分ちへ帰るのかと思っていたら、帰らずにおねえさんちに残っていた。
おねえさんが帰ってくるのを待つつもりなのかな?
「・・・つまんないよ、ちゃ〜ん!」
銀色アタマはリビングのラグの上に寝転がったけれど、どうにも退屈でたまらないらしく、左右に寝返りをうつ。
それはまるで駄々をこねてるコドモみたいで、ボクはちょっと笑ってしまいそうだった。
いつも読んでいるイケナイ本(とおねえさんは呼んでいる)を取り出してパラパラとめくっていたけれど、どうにも読む気にもならないらしく。
パッと起き上がったかと思うと、おねえさんの本棚を物色し始めた。
「う〜んと、どれにしようかな〜?」
パラパラと何冊かの本をめくっていたけれど、手にとったのは古ぼけた一冊のアルバム。
銀色アタマは薄めのコーヒーを淹れて、アルバムをめくり始めた。
「ほら見てみろよ?赤ちゃんの時のちゃんだぞ」
「みゃ?」
ボクがヒョイとテーブルの上に飛び乗って、アルバムをのぞきこんでみると、そこには古ぼけた写真。
「やっぱりちゃんは、赤ちゃんの時から可愛いな〜
おねえさんに良く似た女のひとが赤ちゃんを抱っこしていた。
ちゃんて、お母さん似なんだね」
銀色アタマは古い写真を愛しそうに見つめていた。そっと指先が触れて、写真をなぞる。
おねえさんはここに居ないのに、まるですぐそばに居るかのように。
銀色アタマのごつごつした指先が器用にページをめくっていく。
「今と同じ顔して笑ってるよ」
銀色アタマは楽しげな表情でアルバムに見入ってる。
こういう時、銀色アタマは本当におねえさんが好きなんだな、とボクは思う。
ボクは銀色アタマがキライ(だって、おねえさんとボクの間に割り込んでくるんだもん)だけど、本当にキライにはなれないでいる理由のひとつなんだろうな・・・。
「これがちゃんのお父さんだ」
一枚の写真に親子三人が寄り添って写っていた。
ニコニコ笑っている小さな女の子を真中に、同じように笑顔の大人が二人写っていた。
一人は赤ちゃんの頃をおねえさんを抱っこしていた女のひと、もう一人は銀色アタマと同じ格好をした男のひとだった。
ちゃんのお父さんてさ、オレと同じ忍者だったんだよね・・・」
ポツリと銀色アタマがつぶやいた。
さらにページをめくっていくと、ある時から女のひとは写真に登場しなくなり、それから男のひとも登場しなくなっていた。
そして、空白のページが何枚かあって、ボクの知っているおねえさんの写真がでてきた。
どの写真もおねえさんは楽しそうに笑っていて、ボクを抱っこして一緒に写っていたり、隣に銀色アタマが居たりした。
ちゃんはどうしてオレを選んでくれたのかな・・・?
 だって、オレ、忍者なんだよ。ちゃんのお父さんと同じ、さ」
おねえさんのお父さんは任務に出たまま、帰ってこなかったんだって・・・。
「・・・オレがちゃんと同じ立場だったら、忍者と付き合おうなんて思えないよ」
「みゃ?」
「もしかしたら、帰ってこないかもしれない。もう、逢えないかもしれない。
 それなのに、笑って送り出すことなんてできやしないよ、オレには」
いつもはヘラヘラ笑っている銀色アタマだけど、今はちょっと哀しそうな顔をしてる。
おねえさんは、銀色アタマが帰っていくとき、いつも笑って見送ってた。
『じゃあ、またね!』
さよなら、とは言わない。今度はいつ逢える、とも聞かない。
おねえさんは、ただ銀色アタマがやってくるのを待っているだけ・・・。何の約束もせずに。
ちゃんはね、オレと『約束』はしないんだ」
それがどんな些細なものでも、と銀色アタマは言った。
「『約束を破られたときに哀しすぎるから』って、オレに言ったんだ・・・」
おねえさんはキチンと約束を守るひとだ。ボクが知っているかぎりでは、約束を破ったことはないと思う。
今日だって、銀色アタマがやってきたけれど、先に約束していたからっていう理由でお出かけしちゃったくらいだもん。
ホントはおねえさんだって、銀色アタマと一緒に居たいんだと思う。
悔しいけど、おねえさんは銀色アタマのことが大好きなんだもん・・・。
「でもさ、オレは勝手に約束してるんだ」
「みゃ?」
「絶対にちゃんのところへ戻ってくる。オレはそう決めたんだ」
銀色アタマはちょっと笑って、ボクの頭を撫でた。
「確かにオレは、ずっとちゃんのそばには居られない。任務が入っちゃうと、どうしてもね。
 だから、オレが居ないあいだ、オマエがずっとそばに居てあげてよ」
「みゃ!」
そんなの当たり前だよ!なんなら、ずっと来なくてもいいぞ、銀色アタマッ!
「頼んだよ」
銀色アタマはやさしい笑みを浮かべて、ボクをずっと撫でていた。


カチャカチャと、玄関のカギを開ける音が聞こえた。
かなり焦ってるみたいで、カギを開けるのを失敗したみたい。開いてるのに、また締めちゃったよ?(笑)
あ、今度はカギを落っことした!そんなに焦らなくてもいいのにな〜。
銀色アタマとボクは、おねえさんがドアを開けるのを玄関で待ち構えていた。
「ただい・・・わっ!」
「お帰り、ちゃん
「にゃーん
ドアを開けて中に入った瞬間、銀色アタマに抱きつかれ、足元にはボクがじゃれついて、おねえさんはものすごくビックリしてた!でも、すぐに楽しそうに笑った。
「ビックリした〜!なあに?ふたりして、あたしを驚かそうとしたの?」
「だって、ちゃんが帰ってくるのを首をなが〜くして待ってたんだもん。な?」
「にゃー」
ボクが銀色アタマに同意するように鳴くと、おねえさんはちょっと驚いたみたいだ。
「あら、あたしが居ないあいだに、すっかり仲良しになっちゃったの?」
フ、フン!別に仲良しになった覚えなんかないやいっ!
でもね、ボクが銀色アタマと仲良くしてたら、おねえさんが嬉しそうに見えるんだ・・・。
――だから、ボクは決めた!
銀色アタマと仲良くしてやる!(でも、おねえさんが一緒に居るときだけっ)
だって、嬉しそうなおねえさんを見てると、ボクも嬉しくなってくるんだもん。
思いっきり『ねこ』かぶっちゃうんだもんねっ!


あのアルバムに新しい写真が増えるといいな。
ボクとおねえさんと・・・銀色アタマ(←まだ葛藤があるらしい)
もっともっと楽しい思い出を、いっぱいいっぱい、おねえさんにプレゼントしたいな・・・。

どうやったら、おねえさんは喜んでくれるのかな?

おねさんに背中を撫でてもらいながら、ボクは一生懸命考えていた。
ああ、でも・・・気持ちよすぎて、眠っちゃいそう・・・ふぁあ・・・。
考えるのはまた明日にしよっと・・・。




【あとがき】
こちらも企画投稿用に書いた作品です。お題は『2人キリ』。
某方にヒントをいただき、にゃんこと2人キリでお留守番させてみました。
にゃんことカカシ先生は意外に仲良しだったのでした・・・(笑)

最後まで読んでいただいてありがとうございました。
 2005年7月10日