HappyBirthDay
「ゲッ!」
「おかえりぐらい言ってくれないの、ちゃん?ドア開けて、いきなり『ゲッ!』ってヒド〜い」
こぎれいなアパートの一室のドアを開けたオレは、可愛い恋人の、あまりありがたくないお出迎えを受けた。
「なんで、こんなに早いの?まだ夕方だよ」
「ん〜、なんか今日は、アイツら妙にがんばっちゃってさ。思ったより早く終わったんだよね」
今までの会話は、10センチ程開いたドアの隙間から交わされたものだ。なんで今日は部屋に入れてくれないのかなぁ?
なんか、マズイことやっちゃったのかな、オレ・・・?
「ちゃんこそ、今日は遅くなるんじゃなかったの?
だから、夕飯にカレー作って待ってようと思って材料買ってきたんだvv」
ちゃんは、オレの下げてるスーパーの袋をチラッと見た。
「それ、冷蔵庫いれとくから。1時間したら来て」
バタンッ!
オレの目の前で、無残にもドアは閉じられてしまった。ちょっとちょっと、ちゃん?
いったい、どうしちゃったのさ〜?!
オレはトボトボと里の中を歩いてた。頭の中は、さっきの出来事でグルグル状態。
まぁねぇ〜、ほとんど『押しかけ』恋人みたいなモンだからなぁ、オレ(汗)
ちゃんは、木の葉病院でお医者さんをやってる。早い話がオレの一目惚れってヤツ。
ライバルは多かったんだ。めちゃくちゃ頑張って、なんとか『一緒に住む一歩手前』までこぎつけたんだけど。
そう、こないだ思い切って「一緒に住みたい」って言ったんだ。ちゃんはお医者さんだし、オレは忍で。
勤務時間なんてあってないようなモンだから、下手するとすれ違いばっかしでなかなか会えなくて、ね。
家が一緒なら、会える時間が増えるデショ。そしたら、ちゃん、なんて言ったと思う?
「別れた時、メンドーだからやだ」
その時オレは、ズドーンッと地獄の底まで突き落とされたような気分だった。
「だって、荷物とか分けるの面倒じゃん。住む場所探さなきゃいけないし。あたし、この部屋気に入ってるし」
「・・・なんでそう別れる時のことばっかしなの?一緒に住んだら楽しいよ、きっと」
「カカシとかぁ〜。楽しいっていうか、疲れちゃいそうだしなぁ」
グサッ!グサグサッ!!
「ちゃんてばヒド〜い(号泣)」
よよと泣き崩れた(←ホントか?)オレをさすがに可哀想に思ったのか、ちゃんはクスクス笑いながらシルバーのキーホルダーをくれた。それにはカギが1個ついてた。
「も、もももしかしてっ!?コレって」
「うちのカギ。失ったら承知しないからね」
「うんっ!ゼッタイなくしたりしないっ」
ホントはカギなんかなくたって、簡単に部屋に入れちゃうんだけど・・・。オレはものすごく嬉しくなっちゃって、
ちゃんにぎゅうって抱きついたんだ。
「く、苦しいってば」
ちゃんに頭をポカッとやられたんだけど、オレは嬉しくて嬉しくて、彼女を抱いた腕をゆるめることができなかった。
それでちゃんに、余計に怒られちゃったんだけどね。
う〜ん、何かご機嫌を損ねるようなこと、しちゃったのかな。そりゃ、つきあってたら色んなことがあるじゃない?
ケンカしたことだってあるし、ね。でも、このところ、うまくいってたと思うんだけどなぁ・・・。
「カカシせ〜んせっ!」
「ん?なんだ、サクラか」
ぼんやり歩いていたオレは、声をかけられるまでサクラに気づかなかった。
いつのまにか、里の商店街のあたりまで来ていたらしい。サクラはおつかいに来ていたのか、買い物袋を下げていた。
「こんなところで何してるんですか?先生のとこに行かなかったんですか?」
・・・なんか興味シンシンって気がするんですけど?オレの気のせい、じゃないよね。ちなみに、ちゃんはアカデミーの講師もときどきやっていて、ウチの子供たちとも知り合いというか、すごく仲が良かった。
オレとちゃんがつきあい始めた頃、ナルトとサスケから殺気を感じたのは、断じてオレの気のせいじゃなかった(笑)
「ん〜、行ったけど。なーんで知ってんのかなぁ、サクラちゃん?」
「えっ?」
目に見えて慌てるサクラ。忍たるもの、そんなに感情をあらわしてどうするよ〜?(笑)もうちょっと訓練が必要だねぇ。
「あっ、あたし、おつかいの途中だったんですぅ!じゃぁね、センセ」
サクラを引き止めても良かったんだけど。そろそろ約束の時間だし。
今度は部屋にいれてくれるのかな・・・?ちょっと心配、だったりして。
カギは持ってるけど部屋の主がいるんだからと、オレはチャイムを鳴らした。
「・・・ちゃん」
「どーぞ、入って」
今度はちゃんと部屋にいれてくれた(ちょっとホッとしたりして)
「お風呂沸いてるから、入ってくれば?着替えはいつものとこね」
「う、うん」
ほとんど追い立てられるように、オレは着替えを持って浴室へむかった。
そういえば、先週、オレのためにクローゼットの一角を空けてくれたんだよね。ブツブツ言いながら(笑)
オレが頼んだワケじゃないんだけど、ね。そこには、新しい下着とシャツが増えていた。オレの気分は急上昇vv
「えへへへ」
顔が自然ににやけてくる。こんな顔、誰にも見せられないよね〜。
オレはさっさと入浴を済ませると、新しいシャツとお気に入りのジーンズをはいた。いつもの額当てと口布はなし。
だって、好きなコの前でぐらい、素顔でいたいじゃない?
「ねー、なに飲む?ビール?」
「うん、ビールちょうだい」
お風呂上りにビール。ほんでもって、それを差し出してくれるのは可愛い彼女vv
さっきの沈んだ気持ちなんてすっかり忘れて、オレはものすごく幸せな気分になってた。
「ゴハンできてるよ♪」
「ハーイ!」
食卓について、ビックリした。ちゃんは忙しい生活を送ってるのに、結構マメにゴハンを作ってくれる。
・・・にしても、この豪華さはなんだっ?!
「あ、あの、ちゃん、コレどうしたの?」
テーブルいっぱいに色んな料理が並んでいた。そういえばこの料理、オレがちゃんに『おいしい』って言ったヤツばっかり・・・?
「だって、誕生日でしょ?」
誕生日調べるの苦労したんだからね、ってちゃんは得意そうに言った。オレに直接聞けばいいのに。
オレがそう言うと、ちゃんはチッチと指を振った。
「お誕生日とかってさ、誰かが覚えてくれてると嬉しくならない?カカシに聞こうかとも思ったんだけど、
びっくりさせたかったの。プレゼント、何がいいかずっと悩んでたんだけど、結局決められなくて。
カカシが『おいしい』って言ってくれたおかずばかり作ってみたんだけど・・・あ」
もしお世辞だったらどうしよう?って、ちゃんは急に慌てだした。オレは自然に顔がほころんだ。
「だいじょ〜ぶ。ちゃんのゴハン、いつもおいしいもん」
「だとイイけど。冷めないうちにどーぞ」
さっきオレを部屋に入れなかったのは、料理が途中だったかららしい。思いがけず、オレが早く来たせいで。
よくよく聞いてみると、この話にはナルト・サスケ・サクラも一枚噛んでいたらしく。3人は、オレを早く帰らせるために今日は任務をさっさと終わらせたらしい。いつもこれくらい頑張ってくれると、オレも楽なんだけどね〜。
「おいしい?」
「うん!もうサイコーだよ、ちゃん!」
ちゃんが作ってくれたごちそうを二人でおなかいっぱい食べて。
「ごちそうさま」
「おそまつさまでした」
すっかり空っぽになったお皿を見て、ちゃんがにこにこと答えてくれる。おなかもくちくなって、ほどよく酔いもまわったちゃんの頬は綺麗なピンク色だった。
ちゃんて、ホントお肌キレイなんだよねvvそれでつい触りたくなって、いつも怒られちゃうんだ。
「あ、忘れてた!」
「ん〜、なぁに、ちゃん?」
「お誕生日おめでとう、カカシ。まだちゃんと言ってなかったね」
不覚にもちょっとうるっときてしまったオレ。ちゃんをぎゅうっと抱きしめた。つい頬擦りなんかしちゃったりして。
「・・・ありがとね、ちゃん」
「どういたしまして・・・って、ちょっと苦しいんだけど」
甘えん坊さんだね〜、っておもしろがってるちゃんの声が聞こえる。
確かに『里一番のエリート忍者』らしくないよね(笑)甘えついでにもうひとつワガママ言ってみちゃおうかな〜?
「ね〜、ちゃん」
「ハイ?」
「オレ、デザート食べたいなvv」
「えっ?ケーキ食べたかったの??普段あんまり甘いもの食べないから、買ってないよ〜」
困ってるちゃんを抱き寄せて、頬に軽くくちづける。
「ココにあるも〜ん♪」
「ゲッ・・・マ、マジですか」
ピキッと固まったちゃんをさらに抱き寄せて、オレはおいしくデザートをいただいたのでしたvv
スヤスヤと眠るちゃんを、後ろからそっと抱きしめる。くったりと安心しきって眠るちゃんは子供みたいだった。
「・・・ちゃん」
大好きだよ。好きすぎて、どうにかなっちゃいそうだよ?
今まで女の子とつきあったことがナイ、なんて言わない。でも、ちゃんは、ちゃんは違うんだ。
キミだけが『特別』なんだ。本当に、本当に『特別』なんだ。
オレばっかりキミを好きなのかと思って、ホントはちょっと悩んでたんだ・・・。
でも・・・でも、少しはうぬぼれてもいいんだよね?
オレの誕生日をこっそり調べたり、忙しいキミが休みを取って料理を作ってくれたり。
オレがどんなに嬉しかったかわかるかい?
物心がついた頃にはひとりぼっちで、忍者になっていた。誰かの命を奪うのも日常茶飯事で。
とても誕生日なんて祝う気持ちにはならなかった。だってそうでしょ?
オレが殺してきた人たちにだって、誕生日を祝ってくれる人がいたはず。それを断ち切ってしまったのは、このオレで・・・。
一度だけ、オレはちゃんに愚痴ってしまったことがあった。
その頃いろいろあって、オレはかなり精神的に参っていた。
『こんなに人を殺してきて、オレって生きていてもイイのかな』
みたいなことを、ついぽろっとちゃんに言ってしまったのだ。
「なに言ってるの」
そんな怖い顔をしたちゃんを見るのは初めてだった。いつもにこやかで、笑顔を絶やさないちゃんなのに。
「あたしは、カカシが生きていてくれて嬉しいよ。それだけじゃたりない?」
オレを見つめてくる目は真摯で、真実以外はカケラも見つからなかった。
「・・・ちゃん」
「カカシが死んだら哀しいよ。カカシは、あたしを哀しませたいの?」
「そんなこと・・・!」
「だったら、生きて。生きて、あたしのところに帰ってきて。ケガだって、病気だって、あたしが治してあげる。
だから、生きて帰ってきて」
ちゃんは、オレを抱きしめてくれた。その暖かい両腕が、とても心地よくて。
オレはもうこの手を離すことはできないと思った。
ねぇ、ちゃん?知ってる?
オレって、ものすご〜く欲張りなんだ。オレはもうキミを手放すことはできないんだ。
・・・それがキミを傷つけることになったとしても。
オレがちゃんに出会ったのは幸運で、ちゃんがオレに出会ったのは不運かもしれない。
愛しているよ、キミだけを。キミだけを愛している。
だから、お願い。お願いだから、オレのそばにいておくれ。オレがキミの傍らにあることを許しておくれ・・・。
オレは、ちゃんを腕に抱いて、幸せな気持ちで眠りについた・・・。
「キャーッ!なに勝手に目覚まし止めてるのよっ?!」
翌朝、オレがちゃんに叩き起こされたのはまた別のお話(笑)
【あとがき】
カカシ先生です。たとえ偽者だとしても(汗)
彼の語り口といいますか、ほどよく抜けた感じのするあの口調が大好きです vv
アニメの声を担当されている井上和彦さん、好きですね〜!!
子供の頃「あ、いい声!」と思って、初めてチェックした声優さんでした。
ときめもGSに続編がでるとしたら、今度はぜひ井上和彦さんをいれて欲しいものです。
ああ、あの声で名前を呼ばれたいっ!(←バカ?)
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
2003年11月2日