HappyBirthDay to You!!




ピピピッ!ピピピッ!
「ん…もう朝……?」
は手探りで枕もとの目覚し時計を止めた。カーテン越しに朝の光が差し込んでくる。
今日はなんだかベッドが広いような気がする。
「…ああ、カカシがいないんだ」
彼女の恋人は、朝気がつくとベッドを半分占領して、ちゃっかり隣で眠っていたりするのだ。
戸締りはきちんとしているつもりだが、忍であるカカシに通じるはずもなく。
だが、いつもいつもベッドに潜りこんでくるというわけではない。忍という職業柄か生活は不規則なので、目覚めてそばにいるという方が珍しい。
でも、今日はなんとなく来ているような気がしたのに……だって今日はあたしの誕生日だから。
「……忘れちゃったかな」
改めて口に出してみると、ちょっと寂しく思ってる自分に気づいた。カカシが家にくると、ぴったりくっついてきて家事も何にもできなくって。一人の時間が欲しい、なんて思っていたはずなのに。
「遅刻しちゃう」
ぼんやりしてたせいだろう、少し急いで仕度しなければ仕事に遅れてしまう。
はベッドから飛び起きた。


コーヒーとトーストで簡単に朝食を済ませ、徒歩で木の葉病院へ向かう。
は、この朝の通勤時間が大好きだった。毎日変わる空の色、風の温度、それを感じながら歩くのが大好きだった。
先生、オハヨーッ!」
子供達の元気な声がを追い抜いていく。
「おはよ、みんな。宿題やった?」
ちゃんとやったー、忘れたー、とか黄色い声が口々に答える。
「早くアカデミーへ行って、授業の前にちゃんとやりなさいよ?でないと、イルカ先生に怒られちゃうよ」
「え〜、やだよぉ〜」
「じゃ、早く行きなさいよ!」
ハーイという声とともに、子供達がキャアキャア言いながら駆けていく。もちろん一人一人の名前を知っているわけでないが、朝出会う大切な友達だ。
は笑顔でそれを見送ると、自分も病院への道を急いだ。


「あれ、どうしたの?任務は?」
病院へ行く坂道の途中で出会ったのは、カカシの担当する下忍の子供三人だった。
「おはよっ、センセッ!」
「おはようございます、先生」
「……オハヨ」
三者三様に朝のあいさつをしてくれる。アカデミーで時々治癒術の講師をしていたこともあって、三人はとも知り合いだ。
「おはよう。今日はどうしたの?任務に遅刻しちゃう……って、遅れてくるのはカカシだっけ」
「そうだってばよ!先生からも何とか言ってやってよ」
「そうなんですよ!こないだだって、二時間も待たされたんだから!!」
「……アイツの遅刻は酷すぎる」
三人は口々にカカシの遅刻歴(?)を披露してくれる。はちょっとため息をついた。
「わかった、わかった!今度会ったら注意しとくから。ね?」
チラリと腕時計を見ると、いつもの時間より十分ほど過ぎている。悪いけど急ぐから、と言おうとしたとき、
「「「お誕生日、おめでとう!」」」
バサッと目の前にかわいらしい花束が差し出された。それはの好きなガーベラで、しかも淡いピンクは一番好きな色だった。
「あ、ありがとう!でもなんで、あたしの誕生日なんて知って…?」
「だってさぁー、カカシ先生ってばよ、すっごいウルサイの!『ちゃんに何あげたらいいカナ〜?』ってずっと
 ブツブツ言ってるんだぜ〜?」
「そうそう!ホント、うるさくって大変だったんですから」
クスリとは笑みをもらした。彼女の恋人が頭を悩ませている様子が目に浮かぶ。でも、その本人はまだ現れない。
「…そういえば、カカシは?」
三人は急に静かになって、顔を見合わせた。サクラにつつかれて、サスケがようやく口を開いた。
「アイツは急な任務が入って、里から出てった。2〜3日で戻るらしいから、あんまり心配すんな」
「そっか。どおりで静かな朝だと思ったんだよね(笑)」
の笑顔につられて、三人も表情を緩ませる。上忍であるカカシに依頼される任務というのは、Aクラス・Sクラスのはずだ。報酬はもちろんかなりの高額だが、それに伴い危険度も増す。
長期の任務に出る時は、必ずに一言告げていくカカシだが、今日はその余裕もなかったらしい。
…ということは、かなり緊急の依頼で、危険度も当然のことながら高いはずだ。
「大丈夫だってばよ、センセ!カカシ先生は強いんだからよ」
「そうですよ!明日かあさってにはちゃんと帰ってきますよ」
「…アイツは強い。心配すんな」
子供達のなぐさめに、自分はそんな落ち込んだ顔をしていたのだろうか、とは思った。
カカシが任務で里を空けるのなんて、日常茶飯事なのに…。
「ありがと、みんな!お花、すごく嬉しいよ」
今度こそ遅刻していまいそうだ。三人にそそくさと別れを告げて、は病院へと走り出した。
「大丈夫かな、先生ってばよ」
「なんか元気なかったみたい…」
「あんなヤツでも心配なんだろ」
子供達が心配そうに囁きあっていたことを、は知らない。


が病院に着いても、誕生日を祝ってくれる人が次々と現れた。
同僚の医師や看護士、入院している患者たちまで。が高価なモノは受け取らないとわかっているのだろう、プレゼントは花やお菓子などがほとんどで、入院している子供達は似顔絵や折り鶴をくれた。
「ありがとう!」
と皆に笑顔で答えながら、自分はどうしてこんな寂しい気持ちになっているのだろう、とは思った。
大勢の友人達が自分の誕生日を口々に祝ってくれる。入院中の患者達まで、だ。
充分じゃないの、これで?これ以上、欲しいものなんてないはずなのに…。
の沈んだ気持ちなどおかまいなく、日常は過ぎていく。普段よりは落ち着いた一日だった。
「今日は患者さん、少なかったですねえ。先生の誕生日だからかな?」
「さぁどうでしょ?お誕生日のあたしは、これから夜勤に突入です(笑)」
「あらあら、ツイてないですね」
クスクスと看護婦が笑いながら医局の前を通り過ぎていく。
いつもより静かな今夜、もらったお菓子を頬張りながら、は医学雑誌に目を通していた。
普段ならこんな静かな時間はめったにない。
予断を許さない集中治療室の患者達にも異変はなかったし、急患も今夜はまだ現れていない。
は、ぼんやりと医局の窓から月を眺めた。
夜空には銀色に輝く月がひとつ−その色は一人の男のことを思い出させて。
「ちゃんとゴハン食べてるのかな…」
怪我してるんじゃないか、無事でいるんだろうか、とか、は考えないようにしていた。遠く離れている今、考えても答えのでることではなかったし、考えれば考えるほど恐ろしくなってしまうから。
「先生!急患です!」
静寂を破ったのは看護士の声だった。はパッと立ち上がった。
「胸部痛の男性です。処置室の3号にお願いします」
「はい!」
カルテを受け取り、パタパタと処置室に走る。
「どうされました?」
処置室には患者本人しかいなかった。普通は看護士が付き添っているはずなのに、とちょっと不信に思いながら。
しかも患者は、頭からすっぽりシーツを被ってしまっている。
「胸が痛むんですか?いつからですか?」
「…ずっと胸が痛くて痛くて……」
あれ、この声…?ああ、どうしてこんなにドキドキするの…?そんなはずないのに…神様……。
シーツがずれて、ちらりと髪の毛がのぞく。この色は…
「シーツとりますよ!」
が手を伸ばす前にシーツがバッとまくりあげられ、見慣れた銀色の髪が目に飛びこんでくる。
「カ、カカシ?!」
先生の事を想うと夜も眠れなくて、胸が痛いんですvv
現れたのは忍服姿のカカシだった。あちこち泥だらけなのは任務帰りそのままなのだろうか。
「なっ、なにしてるのよっ?!」
「ん〜、ちゃんに『お誕生日おめでとう!』って言いたくって病院にきたら、看護士さんたちが入れてくれたんだv
「…くっ……このバカッ!!」
カルテを留めたクリップボードがカカシめがけて投げつけられた。しかし、カカシは難なくそれをヒョイとかわす。
「えっ、ちょっと、ちゃん?!どーしたの?(汗)」
「どーしたの、じゃないわよ、この大バカヤローッ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶの瞳からは、大粒の涙がつぎつぎと溢れてきて。カカシも一瞬呆気にとられた。
カカシは今まで、の泣き顔を見たことはなかったから。
どんなに辛い時でもぐっと唇を噛みしめ、涙をこらえていた
…でも、今は止め処もなく涙が溢れている。
は白衣の袖でグイと涙をぬぐうと、処置室から走り去ってしまった。


は深夜の屋上でひとり、膝を抱えて座り込んでいた。涙はまだ止まらない。
「…ひっく・・・っく」
大バカヤロウなのはあたしの方だ、とは思った。処置室でカカシを見たとき、心臓が止まるかと思った。
ことあるごとにくっついてきて、自分に『好きだ』と言ってくるカカシ…『ちょっと離れて』と怒ったことだって何度もある。
けれど、本当はくっついてくるカカシの暖かさに、自分は安心してたんだ。
カカシがそこに居ることに、自分のそばに居ることに。
こんなにも大切な存在になってることに気がつかないでいたなんて…。
「あの…さ、ちゃん…」
その声に顔を上げると、目の前にカカシがしゃがんでこちらを見ていた。
「ゴ、ゴメンね。びっくりさせちゃったみたいで…」
オレが怪我したと思っちゃったんだよね?、とおずおずとカカシが言う。
「でも、どうしても今日中にちゃんに会いたかったんだ…」
ガサゴソと忍服のポケットを探っていたかと思うと、カカシはの左手をとった。
「お誕生日おめでとう、ちゃん」
「…カカシ、これ……」
の左手には、シンプルなプラチナのリングがはめられていた。
ちゃんはこーゆーのキライかなって思ったんだけど、どうしても渡したくて…さ」
恥ずかしそうに頭をかきながら、カカシがぽつりぽつりと呟く。
「あ、コレでちゃんを縛りつけようとか、ってそんなんじゃないからねッ(汗)…いや、オレはそれでもイイんだけど。
今のオレの気持ち…受け取ってくれる、かな…?」
「カカシ!」
「え…?」
が突然抱きついてきて、カカシはバランスを崩して尻餅をついてしまった。
「どしたの?大丈夫??…指輪、イヤだったんなら…(汗)」
「……がう」
「え、なに?」
「…ちがう」
必死に縋りつくように自分に抱きついてくる。いつもと立場が逆だな、とカカシは思った。
「指輪ありがと…でも…」
でも、の後はどんな言葉が続くのだろう?やっぱり『ごめん』って続くのかな…
『ごめん』なんて言われたら立ち直れないかも、オレ…
「でも、あたし…もっと欲しいものがあるの……」
「え、なにっ?ちゃんの欲しいものだったら、何でもプレゼントするよ!!」(←必死)
「…カカシ」
「ハイ?」
「……カカシが欲しいの」
・・・・・・なんてかわいいことを言ってくれるのだろう、この恋人は…。カカシは、幸福感でめまいがしそうだった。
「そんなの、とっくにぜ〜んぶ、ちゃんにあげてるのに?」
返品は受け付けないからねvvとカカシはの背をポンポンとたたいた。
「返品なんかしないもん」
またギュッとしがみついてくる、その重みさえ愛しく感じる。
「…黙っていなくなったりしないでね」
「しないよ。絶対にちゃんのところへ戻ってくるから・・・」
ふたりとも、この約束の危うさを十二分に承知していた。それでも言葉にせずにはいられなかった。


この腕の中の存在が愛しくて愛しくてたまらない。これを守るためなら自分はなんだってするだろう、と思う。
この約束が果たされるのか、それとも破られるのか、それは誰にもわからない。
……でも
オレは帰ってくる。キミが待っていてくれるなら、ここに帰ってこれる。
だから、抱きしめて、くちづけて、名を呼んで。そうすれば、きっとオレは帰ってこれるから……。




【あとがき】
書いててめっちゃ恥ずかしいっす。。。
さんにメロメロなカカシ先生ばっかり書いてたので、たまにはさんsideをと思って書いてみたんですけどね・・・なんか単なるバカップルになってしまいましたワ(T_T)

最後まで読んでいただいてありがとうございました。
 2003年11月13日