voice




もうそろそろ日付が変わろうかという時刻、あたしはもう寝る準備は万端で、パラパラと読みかけの文庫をめくっていた。
カタン・・・・・・
ベランダで何か物音がしたような気がして、あたしは恐る恐る窓に近寄って行った。
もしかしたら、カカシが来たのだろうか・・・?でも彼なら、とっくにあたしのベッドにもぐりこんできているハズだ。
キッチンにお茶をいれに立って、戻ってきたらもうそこに座って『オレにもお茶ちょうだい♪』なんていうコトが日常茶飯事なのだ。
正直ビックリするから止めてほしい・・・カギをあげてからは、ちゃんと玄関から入ってくるようになったけど。
そもそも、カカシにカギなんて意味がないのだ。彼は木の葉の里の上忍で、『コピー忍者のカカシ』とか『写輪眼のカカシ』とか呼ばれてる。あたしと一緒にいるときは、とてもそんなスゴイ忍者には思えないのだけれど。
「カ、カカシ・・・?」
あたしがこわごわカーテンをそっとめくると、そこには忍服姿のカカシが立っていた。
「どうしたの、カカシ?なんで入ってこないの??」
「・・・ゴメン、起こしちゃった?」
なんだか・・・カカシの声に元気がないような気がした。
「ううん、まだ寝てないよ」
「ちょっと顔見たいな、って思っただけなんだ・・・」
「ね、入って」
「・・・うん」
あたしは無理やりカカシの腕をとって、部屋に招き入れる。
「おなか空いてない?お風呂は?」
「どっちもダイジョ〜ブ。ありがとね」
そう言って、額当てと口布のすきまから除く右目を弓なりに細めて、カカシは微笑んだ。
カカシはいつも優しくあたしに微笑んでくれる。今夜だって優しく微笑んでくれてる。
・・・けど、いつもとどこかが違う気がした。
「お風呂入ってきたの?湯冷めしちゃうからウチで入ればよかったのに!」
あたしはスッと手を伸ばして、カカシの柔らかな銀髪に触れてみた。それはひんやりと夜の冷気をまとっていた。
「冷たっ!もぉ、ちゃんと乾かさないとカゼひいちゃうでしょ〜?」
「・・・ごめん」
あたしはクローゼットを開けてカカシの着替えを取り出すと、それを無理やりカカシに押し付けた。
「ほら、さっさと着替える!ドライヤー取ってくるから、それまでに着替えておくこと。いいね?!」
「え、あ・・・ウ、ウン」
あたしの勢いに戸惑っているようなカカシをそのままにして、ドライヤーを取りに行った。
あたしが戻ってくると、カカシはもう額当ても口布も外して、ウチにおいてあるパジャマに着替え終わっていた。
「それじゃ、そこに座って」
カカシを無理やりソファに座らせて、その後ろに立ってしっとりと冷たい髪を乾かす。
「いいよ、ちゃん。自分でするし・・・」
「なに遠慮してるのよ?いつもなら、もっと甘えてくるくせに」
あたしは笑って、ドライヤーのスイッチを入れた。ブォーと温風が吹きだす。
「ちゃんと乾かさないから、朝あんなに髪ハネてるんじゃない」
「ちが〜うよ!あれはちゃんとセットしてるの!」
「えっ!?ウソでしょ」
他愛もない話をしながら、カカシの髪を乾かしていく。ひんやりとしていた髪がどんどん温かくなってきて、サラサラになっていく。
「よしっ、終わり!」
「ありがと、ちゃん」
にっこりとカカシが微笑む。あたしはドライヤーのコードを巻き取りながら聞いた。
「カカシは明日お休み?」
「うん。ちゃんは?」
「あたしは日勤だよ。帰ってくるの早いから、一緒に晩ゴハン食べる?」
「そうする。ありがと(にこ)」
「じゃ、もう寝ようか」
カカシは休みだけどあたしは仕事だから、今夜はもう寝ることにした。大人しくカカシが寝てくれるかちょっと心配になったけど、そんな心配は無用だった。
あたしのベッドはそんなに広くない。
朝気づいたら、カカシの抱き枕状態になって目覚めることが多い。カカシはなにかというとくっつきたがるから。
でも、今日のカカシは遠慮がちにベッドの端のほうに寄って、眠ろうとしていた。
なるべくあたしに触れないように、といった感じに。
・・・・・・ああ、やっぱりそうだ。そうじゃなければいいと思っていたのに。あたしの希望的観測は外れてしまったようだ・・・。
明かりを消して、あたしもベッドにもぐりこむ。
端っこで寝ようとしているカカシのほうへ手を伸ばして、その身体を抱き寄せる。
「・・・ちゃん?」
「だって今日寒いんだもん」
「オレって、湯たんぽがわりなの?」
「そ!だって、カカシ、暖かいんだもん!お湯もいらないしね」
カカシの身体を抱き寄せて、その柔らかな銀髪をゆっくりと梳く。
「・・・オレさ、ちゃんに名前呼んでもらうの、好きなんだ・・・・・・」
暗闇の中、ポツリとカカシが小さな声でつぶやいた。あたしも小さな声でささやき返す。
「・・・そうなの?自分じゃあんまりイイ声じゃないと思うけどな」
「……オレは好き。
 初めてちゃんに会ったとき・・・どうしてかな?ちゃんに、オレの名前を呼んでほしいって思ったんだ……」
「あたしもカカシに名前呼んでもらうの、すごく好きよ・・・。だって、カカシって声だけはイイんだもん」
「・・・今、何気にヒドイこと言わなかった?」
「え、そぉ?褒めたつもりなんだけどな(笑)」
暖かなベッドの中、他愛もないことを話す。一瞬沈黙が訪れ、カカシが小さな声で囁いた。
「……好きだ。オレ、ちゃんが大好き・・・」
カカシがあたしを抱きしめる。そのすがりつくような手が……愛しくて、哀しい。
「あたしも好きだよ、カカシ」


いつもウルサイくらいに、あたしにくっついてくるカカシ。そんなカカシがあたしに触れようとしない日は
たぶん・・・人を殺した日だ。


『忍は里の道具』だ。言うなれば、それは鍛えぬかれた鋼の剣のようなもので。
その剣を振るうのは人間・・・たとえ剣が誰かの命を奪ったとしても、その責を負うべきなのは振り下ろした人間のはずだ。
剣は剣であるだけで、それ以上でもそれ以下の存在ではない。
詭弁…と言われれば、そうなのだろうと思う。当の剣に向かって、あたしはこんなことは言えないから。
けれど・・・人が剣になりきれるはずがない。忍といえど、心を捨てきれるわけではない。
本当は、心なんて捨ててしまった方が楽なのかもしれない。でも、心を捨てきれないカカシが愛しいと思う。
捨てないでいてくれる、カカシが愛しいと思う・・・。


彼はいま、暗い淵に立っている。危ういバランスを保って、その淵に立っている。
だから・・・だから、あたしは彼の名を呼ぶ。その名を呼んで、その腕を必死に掴もうとしている。
彼がその淵に引き込まれないように。
彼があたしの腕を振りほどこうとしたとしても、絶対にその腕を放しはしない・・・・・・。
たとえ、ふたりでその淵におちてゆくのだとしても。


・・・何度でも呼んであげる。声が枯れるまで、何度でも。
だから、戻ってきて。あたしのそばに戻ってきて。
その柔らかな髪に触れさせて。その声であたしの名前を呼んで。その手であたしに触れて。
お願いだから、向こう側へ行ってしまわないで。あたしのそばに戻ってきて。


あたしは何度でもあなたを呼ぶから・・・・・・。




【あとがき】
く、暗いですよね・・・(-_-;)いつものバカップルを期待していただいた方(いるのかな?(^^;))
ゴメンなさいm(_ _)m
今回シリアスで書いてみました・・・。ちょっと痛いお話になってるかも。
タイトルはポルノグラフティの歌から。わたしの大好きな曲です♪
シリアスじゃなく、らぶらぶなお話でも良かったのかなぁと思わないでもないんですが・・・。
ご感想等いただければ幸いです。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。
 2003年11月19日