甘いワナ
「セ〜ンセッ!お昼ご飯行こvv」
「セ〜ンセッ!お茶し〜ましょvv」
「セ〜ンセッ!飲みに行きましょvv」
背後からは看護士たちの『プッ!』だとか『クスクス』という笑い声が聞こえてくる。
は思わず手にしていたボールペンをへし折ってしまいそうだった。
この変態エロ上忍め・・・!!(怒)
木の葉病院で医師として働くの下へ、上忍はたけカカシが通うようになってはや三ヶ月が経とうとしていた。
お昼の休憩時間、三時のお茶、そして帰る頃と、多いときでは日に三回、のいる診察室へやってくるのだ。
木の葉の上忍ってのはヒマなわけ?(怒)
つれなくされても懲りもせずやってくるカカシに、は呆れていた。里の上忍の中でも特に優秀で、『コピー忍者のカカシ』だとか『写輪眼のカカシ』だとか呼ばれている、他国のビンゴブックに載るようなスゴイ忍者らしいのだが、の見る限り顔を隠した怪しい覆面男でしかないのだ(←ヒドイ?)
しかも、その愛読書は18禁の『イチャイチャ☆パラダイス』ときてる。とて子供ではないから、そいういう本を読みたいなら読めばいいと思っているが、担当している下忍の子供たちの前で堂々と読むのは正直いただけない。
そんな男が診察室の窓辺に日参してくるのだ。
その光景は既に木の葉病院の名物となっていて、それがまたを苛立たせるのだけれど。
「先生、たまにはご一緒してあげたらどうです?」
「そーですよ、先生!・・・あ、このおまんじゅう、おいしい!」
もうすっかり顔なじみとなってしまった看護士の背後に立って、勝手に『うんうん』とうなずいているのは今日も今日とて現れたカカシである。
お茶の時間に現れるときは必ず甘いものを手土産に持ってきて、以外の看護士たちはそれを楽しみにしているようなのだ。
今日の差し入れは、最近里で人気の和菓子屋のおまんじゅうだった。
のデスクにも、渋めの緑茶とともにそれが供されている。
「・・・餌付け作戦か」(ボソッ)
「ナ〜ニ、先生?何か言った?」
「いーえ、何にも言っていません、はたけ上忍」
「もぉ〜、先生ってば他人行儀だなぁ。『カカシ』って呼んでくれたらイイのにvv」
・・・っていうか他人だろっ!というもっともなツッコミを心のうちでいれながら、はおまんじゅうにかぶりついた。
「おいしぃ?」
「・・・ハイ」
「良かったーっ♪」
わずかに覗く右目が細くなって、微笑んでいるのがわかる。それがわかるようになってしまった自分が、ちょっとイヤだとは思った。
どうしてカカシが自分につきまとうのか、にはよくわからなかった・・・。
格別運命的な出会いというわけでもなかったし、自分は絶世の美女ってワケでもない。ただの医者だ。
それに引き換え、里の上忍といえばかなりのエリートで、女たちは熱い視線を送っている。
その中で「はたけカカシ」といえばその名を知らぬ者はいないだろう。
自分を卑下するわけではないけれど、あたしになんか構わなくたって、美女がよりどりみどりのハズ。
それでも構いにやってくるのはあたしが簡単になびかなかったからかもしれない。
それが珍しくって、こうしてやってくるんだろう。
・・・こっちの気持ちが傾いた途端『ハイ、さよ〜なら』なんてのはまっぴらゴメンだ。
「・・・せい?・・・センセ、どうしたの〜?」
「え?」
カカシが心配そうにこちらをのぞきこんでいた。ずいぶんぼんやりしてしまっていたようだ。
「疲れてるの?センセ、頑張りすぎだもん」
誰のせいで疲れてると思うのよ、とはため息をつきたい気分だった。
「なんでもないです」
「そぉ?あんまり無理しちゃダ〜メだよ。
あ、そうだ!オレ、任務で2、3日里を離れるから。オレに会えなくて寂しいと思うけどガマンしてねvv」
「・・・誰が」(ボソッ)
「相変わらず冷たいなあ〜、先生ってば(涙)」
ま、そーゆークールなとこも好きなんだけどねvvとカカシは笑う。そんな二人のやり取りをみて、周りの人間はクスクス笑って楽しんでいる。
「じゃ、帰ってきたらデートしようねvv」
と言い残して、カカシの姿はスッと消えた。
「返事を聞いてから帰れっていうのよ」
「まぁまぁ、先生。たまには優しくしてあげたらどうですか?」
「はぁ・・・」
すっかり冷めてしまったお茶を看護士が淹れなおしてくれた。熱いお茶をフウフウ吹きながらすする。
「確かにねぇ、上忍の方たちの・・・その女性関係はハデですからねぇ。先生が警戒なさる気持ちもわかりますけど」
命がけの任務をこなす上忍は、どうしてもその生き方も刹那的になりがちである。皆が皆そういうわけではないが、その欲望に忠実な者が多いのも事実だ。
「いえ、あたしは・・・」
「でも、噂じゃカカシ上忍、つきあってた女の人とみーんな別れたらしいですよ」
「あ、私もそれ聞きましたよ!全部きれいサッパリ別れちゃったって」
口をはさんできたのはまだ若い女性看護士で、こういう噂話が大好きなのだろう、眼が輝いている。
「・・・てコトは、カカシ上忍は本気で先生のこと好きなんだ〜!!」
キャーッ!と黄色い歓声が上がる。
「コラコラ、そんなに騒いでると看護士長にしかられちゃいますよ。午後の診療ももうすぐ始まりますし」
「あ、ホントだ!」
診察室に集まっていた面々がそれぞれの持ち場へと散っていく。
「まったくもう・・・」
はお茶を一息に飲み干し、舌を火傷してしまった。
「どうじゃ、?病院のほうは」
「ええ、まぁ特になにも」
あれから数日後、は月に一度の三代目の健康診断のために、任務受付所を訪れていた。健康診断も終わり、三代目の私室で午後のお茶を楽しんでいた。
「カカシはどうじゃ?」
「相変わらずですよ、突然診察室の窓から入ってきますし」
そうか、と三代目は楽しげに笑う。
「笑い事じゃありません、火影様!ほんとに毎日やってくるんですから!」
「カカシは仕事の邪魔をしておるのか?」
「あ、いいえ・・・それは大丈夫です」
カカシは何度も診察室に現れるが、診察の邪魔をしたことはなかった。が取り込んでいるときは絶対に現れなかった。
彼なりに気遣いをしているのかもしれない。
そういえば、彼が里を離れると言ってから何日経っただろうか・・・?確か2、3日と言っていたはずだ。
「カカシが来ないのが気になるのかね?」
「いえっ、そんなことはありませんっ!」
そんなに思いっきり否定せずとも良いものを・・・と三代目は笑った。
「ヤツは無事じゃ。少し任務が長引いておるが、心配はいらん」
「あたしは心配なんか・・・」
そう言って、プイと顔をそむけたの頬がうっすらと朱に染まっているのを三代目は見逃さなかった。
ほほう、これはこれは・・・カカシの奴め、なかなかやりおるな。
「まぁヤツはいろいろと問題はあるが・・・コホン・・・根はいいヤツじゃよ」
「はぁ・・・」
「ヤツはのぉ、大切な人間を失ってきたんじゃ・・・。それ以来、大切な人間を作ろうとはせん。
無論、友人や部下を大切にする心は失っておらん。・・・いや、人一倍その心が強いと言ってもよいじゃろう」
「・・・」
「あまり邪険にせんでやってくれ」
「・・・はい」
はぼんやりと診察室の窓から空を眺めていた。午後の診察患者が途切れ、その間にとカルテの整理にかかったが一向にはかどらない。
別にあんなヤツのことが気になってるわけじゃない・・・!
早々にカルテ整理はあきらめ、は少し早めのお茶を楽しむことにした。
自分のためにコーヒーを淹れ、その香りを楽しむ。
「・・・ハァ」
「な〜にため息ついてんの?」
「!?」
目の前には見慣れた銀髪の忍者が、居た。
「カカシ?!」
「ただ〜いまvv」
カカシは、が一瞬嬉しそうな顔をしたのを見逃さなかった。それに自分を呼び捨てにしたことも。
へぇ〜、ちょっとは脈ありってコト?・・・予想以上に喜んでいる自分に、カカシは驚いていた。
サクラの言う『押してダメなら引いてみな』作戦も結構イケるもんだね〜(笑)
「いつ帰ってきたの?」
「ん〜、ついさっき。報告終わってまっすぐ来た」
「・・・そう」
忍服のあちこちに泥ハネやかぎ裂きができてるが、ケガはしていないようだ。
「ねっ、先生、オレとデートしよっ♪」
「デート?」
「うん♪だって約束したデショ?」
「・・・あたしの返事も聞かずに帰って行ったときのアレですか」
「え〜?そーだったっけ?」
いい年した大人が「え〜?」って言うな、とは思ったが、口には出さなかった。
「ふぅ、仕方ないな・・・いいですよ」
「ホントに?!」
やったーっ♪と小躍りしそうな勢いである。はちょっと後悔しそうになったが、なんとか堪えた。
「じゃあ今夜、飲みに行きません?」
「行く!行きます!オレ、もう何でもおごっちゃいます!!」
「えーと、じゃ7時に病院の通用口で待っててくれます?1分でも遅れたら、あたし帰っちゃいますから(笑)」
「ゼッタイ遅れません!」
任務も遅れないでよね〜と内心でツッコミながら、は微笑を浮かべた。
あなたのワナにまんまとハマってしまったみたい。
けれど、簡単には負けないわよ?
さぁ、どうやって巻き返そうかしら・・・。今度はあたしがワナを仕掛けてあげる。
覚悟しといてね、カカシ?
【あとがき】
さんと付き合う前の、押せ押せムードのカカシ先生です(笑)かなり糖度不足ですが(^^;)
どうなんですかねぇ、面倒くさがりやのような気もしないではないんですけど。
いつもはほっといても向こうから女の子がよってくるカカシ先生なので、 攻め加減(?)がわからず、スゴイことになってます(笑)
ホントはもっと長文でした。飲みに行ったシーンとか書いてたら終わらなくなってストップ(汗)
読みたい方っています?(^^;)どうしてもカカシ先生にオチを持ってきてしまう私なので
先生は邪険に扱われますが・・・(笑)
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
2003年11月30日