It holds and is a pillow.




「ただいま〜」


本日の任務、たけのこ掘りの成果は上々。
あまりに上々に行ったので、お土産にってもらった焼き筍。
これから料理するのは面倒でしょ?と後は食べるだけの簡単料理。
新鮮だからできる技。

「あ、おかえりなさい。カカシさん」
ちゃんただ〜いま」

おや?めずらしい。

「これお土産の焼筍、このまま食べれるよ?」
「わ〜い!丁度、なんか口寂しかったんだ〜」

一人で家で飲んでるなんてちゃんらしくもない。
頭を軽くぽんぽんとしてやると、きょとんとした顔をしていた。

「泥だらけだから急いでシャワー浴びてくるね」
「急がなくてもいいよ?ごゆっくり〜」

ちゃんはひらひら手を振って送り出してくれたけど、
俺からみればどうみても空元気。
ごゆっくり〜なんてしてる場合じゃないよ。
俺にとっては、ちゃんが一大事。
カラスの行水並みの早さでシャワーを浴びてリビングへ。
まだ、髪に水滴が滴ってるのもタオルでガシガシ拭きながら。

「ふ〜、さっぱりした〜」
「うわっ早っ!本当に入ったの??」
「・・・失礼な」
「あはは〜うそうそ。カカシさんは、水も滴るいい男です」
「デショ?・・・惚れ直した?」
「はいそこ、調子に乗らない」
「ちぇ、だめか」

テーブルにはすっかり筍が並べられ、食事の支度が整っていた。

「はい、カカシさん。ビール飲むでしょ?」
「さすが、よくわかってるね〜」

至れり尽くせりの歓待につい喜んでしまうが、今はそうじゃなくて。

ちゃんもまだ飲むデショ?明日お休みでしょ?」
「でも、もうだいぶ飲んだし・・・」
「一人じゃさびし〜よ〜う。一緒にソファ座って〜?」
「・・・じゃあ、もう少しだけ飲もっかな」

この返事に俺は嬉々としてグラスをもう一つ取りに行く。
だって、こうでもしないときっとちゃんは一人で俺の知らないところで我慢しちゃうんだ。
布団の中とかもぐっちゃってさ。
そんなのってないよね。
俺がいるとき位は、甘えてほし〜よ。

「それじゃあ。今日も一日、お疲れ様でした」
「お疲れ〜」

・・・こうして筍はあっという間になくなった。




さすがに空き缶が床に転がり始めて早2時間。

ちゃんはいい塩梅に赤くなってきた。
「明日はお休み」「家だから」ということで気兼ねなく飲み続けていた。
俺からしてみればこのいつにないハイペースも、ちゃんがいつもと違うと気付かせる更なる一因。

「そろそろ寝る?」
「・・・寝たくな〜いッ!」
「はいはい・・・でもね?」
「嫌ったらヤダなのーっ」

・・・ちゃん、今日は一体どうしたの?
クッションを抱えてそんなに小っちゃくなっちゃって。
ソファに膝を立てて爪を噛む。
それもお酒のせいでその爪さえも桜色に染まってる。
見上げる瞳が潤んで何時にもまして艶っぽい。
まるで子供のような駄々をこねる彼女がかわいくてしかたない。

「わかったから、落ち着いて?」

後ろからぎゅっと抱きしめる。
ちょっとビクッとするちゃんってやっぱりかわいい。
いつも抱きしめてるのに慣れないというか、照れてるところがかわいい。

「あの、実はね・・・?」
「・・・うん。なあに?」

しばらくじっと考えこんでいたが、意を決したらしい。
でも、ちょっとしゃべっただけで耳まで真っ赤になってますけど。
・・・あ、ごめん。
これは、耳元でしゃべったからかな?
あいかわらず、耳元は敏感なのね。


「・・・夢・・・見たの」

夢?
思わず目をぱちくりさせて聞き返す。

「夢って寝てみる、あの夢?」
「・・・うん。笑わないでよ」

そんな笑うなんてとんでもない。
少しずつでいいから、俺に教えて?
何がちゃんをそんなに不安にさせてるの?
俺が、ここにいるから。
そんなに爪噛んでたらせっかくのかわいい爪がぎざぎざになっちゃうデショ?

「・・・嫌な夢を見たの」

そう小さく言ってぽすっと俺の腕に収まってしまって。
どんな夢だったかまでは言わなくても、ちゃんが『嫌』だった夢だ。
たぶん、俺がらみなのかな。
・・・なんて、ちょっとうぬぼれすぎかな。
優しく頭を撫でてあげると、まるで猫のように擦り寄ってくる。

「しばらく、こうしてて?」
「・・・仰せのままに」

そっと後ろから、ぎゅっと抱きしめる。
こんな風に寄りかかってくれるちゃんが堪らない。
いつもなら大丈夫って言ってきっと我慢しちゃうようなキミだから。
たまに甘えてくれる時間がとても愛しい。
もっともっと甘えてくれてもいいんだよ?


「ふふ・・・これなら良い夢みれそう」
「ほんと?」
「うん、いい抱き枕だよね」
「俺、枕なの?」
「そ。だから動いちゃダメだよ〜」
「え〜〜!!」

ぎゅ〜っと更に強く抱きしめたい。
そんな邪な気持ちを見透かされていたようで。
ちゃんに先に牽制されちゃった。
ちょっと残念。

「抱き枕なんだから『私がぎゅっとするんだから』・・・ね?」

そう微笑むと、ちゃんはまた俺に抱きついてきてもぞもぞする。

「くすぐったいんですが・・・」
「枕は動いちゃだ〜めッ!」

はい、枕は大人しくします。
しばらくするとどうやら一番居心地の良い場所を見つけたようでもぞもぞが止まった。
こうして、抱きしめられるってのもなかなかいいね。
新鮮というか、すごい必要とされてるってのがわかるっていうか。

なんとも言えない、このうれしさ。

動いちゃダメって言ったけどちょっと抱きしめ返すくらいはいいよね。
トクントクンってちゃんの振動が心地いい。
ゆっくりと、静かに波打つリズム。

ん?ゆっくり?
・・・あれ、もしかして?

「・・・・・・ちゃん?」

いつのまにか、胸元ではスースーと規則正しい息の音。
見ればすっかり気持ち良さそうに寝入っていた。

「あんまりにも早すぎじゃない?」

あっという間に夢の世界に行ってしまったちゃん。
安心しきった無防備な寝顔に、
俺としてはうれしいような。
もう少しだけ男として気にして欲しいような。

・・・だってさ。
こんなにそばにいるとつい目線が・・・目の前の首筋に。
さっき噛んでいた爪と同じく、いつもは真っ白い肌に今夜は特に朱がさしていて。
ちゃんの体中が桜色に染まってる。
それが何気に色っぽくて、堪らない。


・・・そうだ、こんな時だからこそ。
そっと彼女の髪を撫でてみる。

まったく反応なし。

ほんとによく眠ってる。
これは・・・チャンス、かな?
サラリと横へ髪を流してうなじも堪能。
いつも髪をおろしてるからアップにした時しか見えないけど、ものすごく色っぽいんだよね〜。
ま、他のヤツラに見せたくないから言わないけどね。
これが、抱き枕の特権ってやつなのかな。

ちゃんからは絶対見えない位置。
桜色の肌を更に赤く染める。


ちゅっ


へへ、つけちゃった。
ま、すぐに消えちゃうけどごめ〜んね。
こっそり俺の印つけっちゃった。
でもばれたらすんごく怒られそうな気がするから、ないしょだよ。

それにしても、こんな長い時間じっくりちゃん見てたのなんて久しぶり。
は〜、満足満足大満足♪

あ、ごめんね。
だいぶ体が冷えてきちゃったかな。
抱き枕な俺だけど、ゆたんぽ機能も備えてるといえ、やっぱりお布団のほうがあったかく寝れるよね。
ちゃんが風邪引いちゃうといけないもんね。
抱き枕として、責任持ってベットまで運ぶから。

あ〜、でも。
・・・やっぱりもう少しだけこのままで居てもいいかな。

キミに浸っていたい気分なんだ。


この桜色をもう少しだけ、ね。




【あとがき】
『キミとわたしと月と風』のトシエさまから、1万打御礼フリー配布小説をいただいてまいりました
きゃー、カカシ先生が抱き枕!もう抱きしめて放しませんわっ!(笑)
しかも、湯たんぽ機能つき!・・・これからちょっと暑いかもしれませんが(^^;)

素敵な小説をありがとうございました、トシエさん!これからもよろしくお願いしま〜す

 2005年5月21日