嘘吐き
「嘘吐き!」
の瞳から、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。
太陽の光を浴びてキラキラと光るそれはダイヤモンドのようで、カカシはキレイだと思った。
「わたしのコトだけ好きだって言ってくれたのに、ぜんぶウソだったのね!」
パシッといっそ小気味良いほどの音が、カカシの頬で鳴った。思わず殴ってしまった彼女は、カカシが避けなかったことに驚いたようだったが、くるりと踵を返して走り去ってしまった。
「――バイバイ」
の走り去る姿を見送って、カカシはポツリとつぶやいた。
「よぉ、カカシ。どうした?」
今日は休みだったろ、とアスマは紫煙を吐きながらカカシに言った。ここは『人生色々』。
アスマは待機中だった。
「ん〜、べつに。ど〜もしないよ」
「どうもしねぇワケねぇだろ?聞いたぜ、あのお嬢ちゃんと往来でハデにやらかしたらしいじゃねぇか」
「あ〜、アレね。何で知ってんのさ?」
「知らねぇヤツがいたら、お目にかかりたいね」
「あっそ」
そう言って、隣に腰掛けたカカシは、やはりどことなく元気がないように見えた。
「別れちまったってのは本当か?」
「まぁね」
「おまえは、あのお嬢ちゃんをえらく気に入ってたと思ったが」
「・・・気に入ってたよ」
すごくね、とカカシはポツリとつぶやいた。
女のことで落ち込んでいるカカシを見るのは久しぶりだった。ということは、それほど本気だった、ということだろうか。
「女連れのとこを見られたっていうじゃねぇか。そんなにお嬢ちゃんを気に入ってたなら、なんで他の女と」
「・・・泣くんだ」
「は?」
カカシはうつむいたまま、アスマの問いに答えた。
「オレが任務に行くとき、泣くんだよ。ナルトたちとの任務なら、笑って送り出してくれるんだけどさ」
カカシが付き合っていたは一般人だった。
一般人のと上忍のカカシ――住む世界が違う、とまでは言わないが、その生きてきた環境はかなり異なるだろう。
上忍であるカカシが単独で出る任務は、AクラスかおそらくSクラスの任務で、そこでは命の遣り取りなど日常茶飯事で。
危険な任務に出る恋人を、平然と見送れる女はいないだろう。
「それは・・・仕方がねぇんじゃねぇか?あの娘は一般人だろう」
「わかってるよ・・・わかってて付き合い始めたんだけどね。でもさ、泣き顔なんか見たくないんだよね〜」
ふぅ、とカカシはため息をついた。
「アスマ、待機って何時まで?」
「ん?ああ、あと30分くらいで終わりだ」
「じゃ、ちょっと飲みにつきあってよ」
「いいぜ。今日はおごってやるよ」
「サンキュ〜。あ、タバコ1本ちょうだい」
アスマにタバコをねだったカカシは、口布をずらしてタバコを吸った。めったに吸わないタバコの煙が目にしみる。
カカシは窓の外に広がる、里の夜景を見つめた。あの明かりのどこかにも居るのだろうか。
・・・好きだった。大好きだった。明るく笑うが大好きだった。
『嘘吐き!』
の最後の言葉――たしかに、オレは嘘吐きだ。
の笑っている顔だけ見ていたい、と思うのはオレのワガママなのかな?
泣いているを見たくない、と思うのはオレのワガママなのかな?
一緒にいるのが楽しくて、一緒にいられるだけでよかった。がオレの隣にいて、にこにこと笑っていてくれれば、それだけでよかったのに。
『行かないで』
任務に行こうとするオレを、キミが引き止めるようになったのはいつからだったろう。
『ちゃんと帰ってくるから』
というオレを、縋りつくような瞳で見るようになったのはいつからだったろう。
オレという存在は、キミを悲しませるだけ?愛しいキミを悲しませるだけ?
・・・・・・なら、オレたちは一緒にいないほうがいい?
オレは『嘘吐き』だ。
キミにも、自分自身にも、嘘を吐く。が笑っていてくれるなら、オレは嘘を吐ける・・・。
「カカシ、待たせたな」
「ああ。じゃ、ナニ奢ってもらお〜かな」
カカシは灰皿に置いたままだったタバコをもみ消した。立ち昇った煙は掻き消えて、それはとの関係のようだとカカシは思った。
「ちっ、しょうがねぇなぁ。おまえの好きな店で奢ってやるよ」
「さっすが、アスマ先生だね〜。んじゃ遠慮なく」
二人して夜の街を歩く。アスマは新しいタバコに火をつけながら、一歩先をゆくカカシに声をかけた。
「なぁ、カカシよ」
「ん〜?」
「今度はもちっと気の強いオンナにしとけ」
「ああ、そうだね〜」
夜の風が優しく頬を撫でていった。
オレは『嘘吐き』。
キミのためなら、どんな嘘でも吐いてみせよう。キミが幸せでいられるのなら・・・。
【あとがき】
暗いです、すんません・・・(汗)
でも、よっぽどタフじゃないと、カカシ先生の恋人なんかできないと思うんですよね〜。
ああ、だからウチのヒロインはみんな気が強いのか・・・って、自分で納得してどーする(笑)
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
2004年2月8日