Oh My Girl?! 前編




「遅くなっちゃったわね」
「ま、予定通りデショ」
上忍のとカカシは今夜、ツーマンセルを組んで、機密文書の奪取という任務をこなしてきたのである。
文書自体はすんなりと手に入ったものの、追っ手をまくのに時間がかかり、里へ戻ったときには日付が変わろうかという時間であった。
「報告書、どうする?」
「遅くなりついでに、今から書くか?」
「そうね。また明日っていうのも面倒だし」
というわけで、ガランとした人生色々で二人はカリカリとペンを走らせているのであった。
――時計が12時の時報を告げた。
「あ・・・」
「『あ?』」
「いや、日が変わっちゃったなと思ってさ」
「ああ、そうね。早くコレ書き上げちゃって、さっさと帰りましょうよ」
はそう言うと、いっそうスピードをあげてペンを走らせた。
「あのさ〜、
「ん?」
カカシが話しかけても、は顔を上げないまま、報告書を一生懸命書いている。
「今日、オレ、誕生日なんだよね〜」
「え?!誕生日?今日?」
が驚いてパッと顔をあげると、カカシがニコニコしていた。
「そー。もう15日デショ」
「そうなんだ、知らなかった・・・!お誕生日おめでと、カカシ」
「ありがと
やたらとニコニコしているカカシに不審なものを感じた(?)は、先に予防線を張っておくことにした。
「誕生日プレゼントなんて用意してないわよ?」
「・・・そうじゃなくて」
の言葉にちょっとガックリきたらしいカカシだったが、上機嫌な様子は変わることがなく。
に一番に『おめでとう』って言ってもらえて嬉しいな〜ってね
「・・・!?ったく、アンタだけは天然のタラシだわね」
呆れ顔のに、カカシはちょっとムッとしたらしい。
「ヒドイなぁ〜、ってば。オレが誰にでも言ってるみたいじゃない?」
「そうなんでしょ。ほら、さっさと報告書の続き、書きなさいよ」
無視して報告書の続きに戻ってしまったに、「ね〜ねぇ〜」と話しかけるカカシ。ついに根負けしたが顔を上げると、カカシがにっこりと微笑んだ。
「オレの誕生日祝いしてよ
「誕生日祝い?うーん、じゃあ今度、何かおいしいモノ奢ってあげる」
とカカシは、任務明けなどよく連れ立って飲みに行く仲だ。サッパリした性格のとカカシはよく気が合っていた。
「ん〜、それよりも明日・・・じゃない、もう今日か・・・一日、オレとデートしてよ
「デ、デート?!」
「そ。あ、可愛い格好で来てよね〜?パンツは厳禁、スカートでね
「ちょっと!なに勝手に決め・・・」
体術を得意とするは、動きやすさという点からついついパンツばかりを選び、スカートをほとんど持っていなかった。武道家であるせいか、凛々しい感じのはボーイッシュな雰囲気で、パンツ姿のほうがピッタリくると本人も皆も思っている。そのためか、中性的な魅力を持つは女のコに妙に人気があり、バレンタインのチョコの数もハンパではなかった。
「さ〜、そうと決まれば、帰って服選んでね♪報告書はオレが書いとくからさ」
「ヒトの話を聞きなさいってば!」
「・・・誕生日なのに。年一回しかない誕生日なのにぃ・・・」
恨めしそうなカカシに、はぐっと言葉に詰まってしまった。そこをカカシが見逃すワケがない。
「じゃ、そーゆーコトで1時に映画館の前でね〜」
こうして無理やりカカシに背を押される形になって、は帰宅の途についたのであった。


「うひゃー!遅刻だよーっ?!」
は履きなれないミュールに苦労しつつ、映画館へと急いでいた。
早起きしたは、朝っぱらからクローゼットの中を引っ掻き回していたのだが、出てきたのは野暮ったいスーツのスカートのみ。とても着ていけるシロモノではなかった。
困り果てたは、同じく上忍の夕日紅に泣きついたのだった。
が事の次第を話すと、紅は意味ありげにふぅんと言った。
「ったく、カカシってば何考えてるんだろーねぇ?あたしにスカートはいてこいなんてさー」
「ホラ、!しゃべってちゃ、口紅塗れないでしょ」
「あ、ゴメン」
目をつぶって大人しく化粧をされているの顔を見ながら、紅はフフと笑みを浮かべた。
誕生日という特別な日を大切なヒトと過ごしたいと思うのは当たりまえのことだし、好きな相手と過ごすのに美しく装いたいと思うのも当たりまえのことだ。
は体術を得意としているが、それだけではなく頭脳明晰で参謀役としてもチームに迎えられることが多かった。が得意とするのは心理分析――だが、意外にも自分に寄せられる気持ちには鈍感らしい。
カカシはどうするつもりなのかしら?ま、を泣かすようなコトがあったら、わたしが許さないけど・・・。
「はい、出来たわよ、
「ありがと、紅。感謝!」
紅が選んだのは、シンプルな細身の黒のシャツに大胆な幾何学模様のプリントのスカート。ウエストには細いチェーンのベルトがゆらりと揺れている。
いつもは凛々しい感じのだが、紅のメイクによって女性らしい柔らかさが加わり、キリリとした美女といった雰囲気だ。
「きっと、カカシはびっくりするわよ?」
「そうかな・・・」
ちょっと恥ずかしそうなに、紅は微笑ましい気持ちになる。
「元はいいんだから、普段もちゃんとお化粧すればいいのよ」
「そりゃ紅は綺麗だから・・・あたしなんかダメだもん」
「もう、ったら・・・自信持ちなさい!ほら、早く行かないと遅刻しちゃうわよ?」
「え?もう、そんな時間?!ありがと、紅!後で埋め合わせするからねっ」
「いいわよ、そんなこと。ほら、行きなさい」
「うん、じゃぁね!」
こうしては紅の家を出て、映画館へと急いでいるのであった。


「うわ!カカシの忍服以外の格好って、初めて見た!!」
今日のカカシはいつもの忍服ではなく、ゆったりしたシャツに洗いざらしのジーンズ、そして額宛の代わりに薄い色合いのサングラスをかけていた。
「・・・それはお互い様デショ」
を見て一瞬言葉につまったカカシに、はちょっと哀しそうな顔をした。
「・・・・・・」
「どしたの、?」
「やっぱり・・・似合わないよね・・・」
俯いてしまったに、カカシは慌てた。
「ち、違うってば!ちょっと・・・想像以上でさ・・・」
「想像以上?」
「あ、ホラ、映画始まっちゃうよ!」
カカシの言葉の意味がわからずに首をかしげているの背を押し、二人は映画館へと駆け込んだ。
カカシの選んだ映画は意外にも恋愛映画だった。
「ねえ、カカシ?あたし、別にアクション物とかでもいいよ?さすがにイチャパラはパスだけど」
「あのねぇ、?デートの定番といえば、恋愛映画デショ」
「デートって、あたしたちはそんなんじゃ・・・」
と言いつつ、周囲から見ればカンペキにデートに見えるのかもしれない、とは思った。
普段ボーイッシュなスタイルの多いがお洒落をして、そんなをカカシはきちんとエスコートしている。
どうして、カカシはあたしを誘ったんだろう・・・?
には理由がわからなかった。




【あとがき】
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
 2004年9月1日