Gift
「じゃ、今日の任務は完了」
「はぁ〜、やっと終わったってばよ」
すっかり日の暮れた寺の境内で、三人の部下たちがガックリと肩を落としていた。
いつもは元気いっぱいのこの三人がこんなに疲れているのも尤もな話で、今日の任務は寺の裏山の伐採作業だったのだ。切り落とした枝は焚き木にするとかで、境内の片隅にうずたかく積まれている。
「じゃ、オレは報告書提出してくるから、とりあえずここで解散」
「『とりあえず』って、どういう意味だ?」
「んー?」
「もしかして、まだ別の任務があるの、カカシ先生?!」
「ええ〜?オレ、はらぺこだってばよ」
不満タラタラの部下たちに、カカシはポリポリと頭を掻いた。
「いやぁ、任務ってワケじゃないんだけど」
「・・・ハッキリしろ、カカシ」
「ハイハイ、おまえら、この後なにか予定あるか?」
「オレは一楽のラーメン食いに行くってばよ!」
「・・・オレは何もない」
「私も特には・・・」
ふぅん、とカカシはちょっともったいぶってから、厳かに言った。
「じゃ、おまえたちに特別任務を与える」
「「「特別任務?!」」」
「そ!6時にオレの家に集合。遅刻厳禁だからな」
「特別任務ってなんだ?」
「も、も、もしかして、新しい術とか教えてくれんのかっ?」
「でも、なんでカカシ先生の家なの?」
口々にしゃべっている部下たちにニヤリと笑みを浮かべ、カカシは言った。
「ま、来てのお楽しみ!遅れるなよ」
「「「オマエが言うなーっ!!」」」
「ちょうど6時ね」
担当上忍とは違い、第七班の面々は遅れることなく集合していた。
「じゃ、行くってばよ!」
ナルトを先頭に、カカシの家のドアの前に立ったのは良かったのだが・・・。
「人の気配がしないぞ」
「カカシ先生、私たちに来いって言っておいて、忘れちゃったのかしら?」
・・・それも有り得る、あの担当上忍ならば。
三人は顔を見合わせたが、とりあえずチャイムを押してみた。が、当然のごとく反応はなく。
試しにナルトがドアノブに手をかけてみると、カチャリと音がしてかすかにドアが開いた。
「あ、開いてるってばよ・・・」
「入ってみる?」
「・・・」
ナルトが恐る恐るドアを開け、三人で中を覗き込んでみる。
「真っ暗ね・・・」
「誰もいないのか?」
「カカシ先生、どこか行っちまったのか?」
パン!パン、パン!パーン!!
「うわっ?!」
「きゃ・・・?!」
「・・・!」
パッと部屋の明かりがついた。
「「メリークリスマス!!」」
そこには大きなクラッカーの残骸を手にした上忍が二人。
「カカシ先生!それに先生?!」
「なんで、がここにいるんだ?」
「何の騒ぎなんだってばよ?」
驚きを隠せない三人をはクスクスと笑った。
「やだ、カカシったら何にも言ってなかったの?」
「ん〜、『来てからのお楽しみ』って言った」
もう、とはちょっとカカシを睨み、それから三人に向き直った。
「今日はね、みんなとクリスマスパーティーがしたいなって思って、カカシにみんなを誘ってもらったのよ」
「「「クリスマスパーティー?!」」」
そう言われて部屋の奥をのぞいてみると、こたつの上に鍋がセッティングされており、そのほかにも色々料理が載っている。
「クリスマスパーティーはいいとして、なんでカカシの家にが居るんだ?」
「へ?いや、その、それは・・・」
思わぬサスケのツッコミに、はしどろもどろになってしまった。
「まーまー、三人とも早く入れば?せっかくの料理が冷めちゃうよ」
「そ、そうそうっ!早く入って、ねっ」
カカシの助け舟に、は三人の背を押して部屋へと招き入れた。
「それじゃ、まずはカンパーイ!」
チーン、とグラスのぶつかりあう音がする。
とカカシ、それに三人はこたつに座って、ひとつの鍋を囲んでいた。
口布も額宛もしていない担当上忍の素顔を、三人はチラチラと見ていた。
「・・・(誰よ、カカシ先生がたらこくちびるだなんて言ったのは)」
「・・・(違うってばよ。だったら面白いなー、とは言ったけど)」
「・・・(このウスラトンカチが)」
やけに神妙な面持ちの三人を、カカシはクスクスと笑った。
「どーしちゃったの、おまえたち?ナニ緊張してんの?」
ざっくりとしたチャコールグレーのセーターを着たカカシはビールのグラスを傾けつつ、いつになく大人しい部下達をニヤニヤと見ていた。
「おなか空いてないの?お鍋、煮えてるよ」
ぐーきゅるるる・・・(×3)
「お腹の虫は正直ね。ホラ、よそってあげる」
「「「いただきまーすっ!」」」
途端にパクパクと食べ始めた三人を、は優しい笑みを浮かべて見つめていた。
「うまいってばよーっ!」
「おいしい!これって、先生が作ったの?」
「そうよ〜。まだまだたくさんあるからね、いっぱい食べてね」
もカカシと同じく里の上忍だったが、治癒術のエキスパートである彼女は、時々アカデミーでも教鞭をとっていたのである。そんなわけで三人とも知り合いなのだ。
「(もぐもぐ)おかわりーっ!」
「オレも!」
ナルトとサスケが同時にカラッポになった皿を差し出した。はおかわりをよそってやりながら、
「もう、ちゃんとよく噛んで食べなさいよ」
と笑った。
「二人とも、もっと味わって食べなさいよ!ったく、もう」
「そーそー、の手料理なんて、滅多に食べれないからな」
「うるさいわよ、カカシ!」
カカシはのんびりとビールを飲みながら、賑やかな食卓を微笑ましい気持ちで見ていた。
「ほら、ナルト!ちゃんと野菜を食べなさい」
は、よく煮えた白菜をナルトの器の中へ放り込んだ。
「オレ、野菜嫌いだってばよ〜」
「・・・だから、いつまでたってもチビなんだよ」
「っだと、サスケ!」
やれやれ、全然成長しないねぇ・・・。
「ハイ、そこまで〜!いい加減にしないと、外へ放り出すよ、キミ達?」
「・・・(おまえが悪いんだからな)」
「・・・(そっちが悪いだぞ)」
小声で言い合う部下二人にカカシはちょっと困ったような顔をしたけれど、とサクラはそんなことお構いなしにおしゃべりに花を咲かせていた。
「これってそうやって味付けしてるんだ」
「そうよ、それが隠し味なの」
ふーん、とサクラは頷いていたが、なんだか突然もじもじとし始めた。
「どうかしたの、サクラ?」
「あ、あの・・・先生?ひとつ聞いてもいいですか?」
「なぁに?」
「先生とカカシ先生って・・・付き合ってるんですか?」
シーン・・・。
なぜだか突然会話が途切れ、グツグツと鍋の煮える音だけが聞こえていた。
「なっ、なにを突然?!」
「あれー?知らなかったのか、サクラ?オレたち、ラブラブなんだよねーv」
「・・・っ!」
突然カカシに肩を抱き寄せられたは真っ赤になっていた。
「な、なに言ってんのよ、カカシってば!」
「照れなくてもいいじゃないの、v」
ニヤけた担当上忍はともかく、どちらかというと普段はクールな雰囲気のが照れているのが珍しく、三人はマジマジとそれを見つめていた。
「・・・ウワサはホントだったんだ」
「なんで、こんなヤツと付き合ってるんだ、?」
「おいおい、サスケー?仮にも上司に向かって『こんなヤツ』はないデショ」
「フン!」
二人の様子に、サスケはそっぽを向き、サクラは『いつかは私もサスケくんと・・・』と思い、ナルトだけはそんなことにはお構いなしに一生懸命に食べていた。
「ハイ、お待ちかねのケーキよ」
お鍋をたいらげ、満腹の面々だったが、どうにも甘いものは別らしい。
「わぁ!すごい!」
「うまそ〜!」
「・・・」
が大きなケーキを持ってくると、子供達は目を輝かせた。
こんな様子を見ていると、やはりまだまだ子供なのだと思う。日々つらい修行と任務に明け暮れ、年頃の子供とはいえないような生活を送っているのに・・・。
もともとはに頼まれて部下達を誘ったのだが、誘ってよかったとカカシは思った。
「そっちの方がイチゴが大きいってばよ〜」
「もう、ナルトッ!子供みたいなこと言わないの!」
「・・・チッ、ガキが」
わぁわぁ言い合いながら、ケーキを食べ始めた子供達をにこにこと見つめていただったが、ふと立ち上がって隣の部屋へ入って、なにやら両手に抱えて戻ってきた。
「これはあたしからのクリスマスプレゼント!」
が差し出したのは、美しくラッピングされた3つの紙包み。ひとりにひとつずつ、手渡していく。
「開けてみて?」
三人はビリビリと包みを破った。
「わぁ、マフラーだ!」
ナルトには優しいアイボリー、サスケには濃いブルー、そしてサクラには淡いピンクのマフラー。
「すごい暖かいってばよ!」
「毎日寒いからね、カゼひかないようにと思って」
「ありがとうだってばよ!」
「ありがとう、先生!」
「・・・ありがと」
三人三様の礼の言い方に、はクスクス笑っている。
「どういたしまして!」
――楽しい時間はあっという間に過ぎる。
「そろそろお開きにしましょうか」
昼間の疲れとお腹一杯食べたせいか、子供達はちょっと眠そうである。
玄関先で帰り支度をしている子供達を、とカカシが見送る。
「じゃ、ちゃんとサクラを送っていってあげてね」
「わかってるってばよ!」
「ごちそうさまでした、先生!」
「・・・はまだ帰らないのか?」
「ん?あたしはもうちょっと片付けてから帰るよ」
サスケはの背後に立つカカシをチラリと見やり、
「カカシのヤローに襲われんなよ」
と言った。
「・・・な、なに言ってんのよ?!」
「サスケ、おまえねぇ・・・」
「フン!カカシのヤローは信用ならねぇからな、気をつけろよ」
からのプレゼントのマフラーを早速巻いた三人が玄関先で挨拶をする。
「先生、今日はありがとうございました!すごく楽しかったです!」
「マフラー、ありがとだってばよ!」
「・・・メシ、うまかった」
まさに台風一過である。子供達が帰ってしまうと、部屋が急に静かになった気がした。
「アイツら、にしか礼言わなかったなー」
「照れくさいだけよ」
は笑いながら、むぅとした顔のカカシを見やった。
「どーだか。オレの存在なんて、まったく無視だよ〜」
「口布と額宛のないカカシが珍しかったんじゃないの?」
手際よく後片付けを済ませると、は自分のコートに手を伸ばした。
「さ、あたしもそろそろ・・・」
「帰らないよね〜、?」
いつの間に背後に立ったのか、カカシの腕が伸びてきての腰にまきついていた。
「ちょ・・・!?」
「コドモの時間は終わり。これから『オトナの時間』デショv」
「・・・カカシ!?み、耳元でしゃべんないでよっ」
「ん〜?」
恥ずかしさのせいか、ほんのりと桜色に染まったの首筋に顔を埋め、カカシはひどくご満悦である。
「ひゃっ!」
「帰るなんて言わないよね〜、?」
「わ、わかった!わかったから放してってば!」
ジタバタと暴れるを、カカシは名残惜しげに放した。
「いいワインがあるんだ。ちょっと付き合ってよ。ホラ、座って待ってて」
「う、うん」
が渋々(?)コタツに座って待っていると、カカシがワインやらチーズやらを持って戻ってきた。
「まずは、乾杯!」
「乾杯!」
はもともとアルコールに強い方ではないせいか、ワインをちびりちびりと飲み始めた。
「・・・今日はありがとね、カカシ」
「ん?」
ワインを一口飲んで、カカシはチーズのカケラを口に放り込んだ。
「あの子たちを呼んでくれて」
「予想以上に賑やかだったねぇ〜」
あんなにはしゃいでる部下達を見たのは久しぶりだった、とカカシは思った。
「楽しいクリスマスになったかな・・・?」
「ああ、なったと思うよ・・・」
そうかな、とは嬉しそうに微笑んだ。
今夜のクリスマスは、子供達のなかに確かに『楽しい思い出』となって残っただろうと思う。
そして、これからも『楽しい思い出』を増やしていければいい。カカシはそう思った。
カカシもも、そしてナルトもサスケも、家族は居ない・・・。
こんな夜に、クリスマスの夜に、ひとりぼっちの家に帰したくないのだ――と、は言った。
本当はと二人っきりでクリスマスを過ごそうと思っていたカカシにとっては、ちょっとばかり残念なの申し出だったのだけれど。
それでも今夜の楽しげな三人とを見て、一緒に祝ってよかったとカカシは思うのだった。
忍びの里であるが故に、天涯孤独という境遇の者は少なくはない。
だが、ナルトとサスケ――二人が背負うものは重すぎる、とカカシは思っていた。
二人の背負うものを、もカカシも持ってやることはできない。だが、今夜くらいは・・・
クリスマスぐらいは普通の子供らしく過ごさせてやりたい、というの願いは、カカシにも痛いほどわかった。
「チーズ、もうなくなっちゃったな。ちょっと取ってくるね」
「うん」
カカシがチーズとワインのおかわりを持って戻ると、はコタツに突っ伏して眠ってしまっていた。
「おーい、?寝ちゃったの〜?」
ツンツンと頬をつついてみても、目覚める様子はない。ワインのせいかほんのりと頬を桜色に染め、とても幸せそうな寝顔だった。
忙しい任務の合間を縫って、三人にマフラーを編み、カカシにセーターを編み(今着ているのがそうだ)、パーティーの準備をし・・・。疲れているのも無理はなかった。
「ちょっとつまんないけど、まぁいいか・・・」
せっかく綺麗にラッピングしてもらったのになー、とブツブツ言いながら、カカシは小さな包みを取り出した。
リボンをほどいて包みを破ると、中からでてきたのは濃紺のビロードの小箱。パカッとフタをあけると、リングがあった。
小さな二つのハートのモチーフに、小粒のダイヤが埋め込まれている。キラキラと輝くそれは、まるで雪の結晶を集めたかのようだった。
眠るの左手をとると、カカシはそっとリングをその細い指にはめた。
キミは喜んでくれるだろうか・・・?ちょっとはにかんで、嬉しそうに微笑んでくれるだろうか・・・?
幸せそうに眠る恋人の寝顔を見つめながら、カカシはが目覚めるのをのんびりと待つのだった。
【あとがき】
クリスマス企画第4弾。これも結構な勢いで書いておりました(笑)
ホントはゲンマさん創作を先に書き始めていたのですが、コミックスのサスケが切なくて、
楽しげな第七班が書いてみたくなったのです。
しかし、七班はあんまり書いたことがなくて、特にサスケが難しかったです・・・(^^;)
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
2005年1月1日