「・・・なんで、あたしってフラれてばっかりなんだろ」
「そんな落ち込むなって!ホラ、、どんどん飲め!」
「うんっ!」
ここは酒酒屋。テーブルを陣取っているのはカカシと、特別上忍のである。
二人の目の前には既に空になった酒ビンが何本か転がっていた。
「・・・ぷはーっ!」
「おお、いい飲みっぷりだねぇ〜」
「ちょっと!カカシってば、さっきから全然飲んでないじゃないよ!!」
「えー?そんなコトないって」
はすっかり出来上がっているようである。一方のカカシはさほど飲んでいないのか、顔色も変わっていない。
「ホラ、飲みなさいよっ!」
すっかり酔っ払っておぼつかない手つきで、がカカシのグラスに焼酎を注ぐ。
「うわっ!零れるってば」
「なによぉ、あたしの酒が飲めないっての?!」
すっかり目が据わっている・・・。カカシはヤレヤレといった様子で、注がれた酒をちびちびと飲んだ。
「・・・ひっく」
じわり、との瞳に涙が浮かび、ポロリと一粒頬を伝い落ちた。
「なんでダメなのかな・・・。やっぱり、あたしが女らしくないから?可愛くないから?」
は可愛いーよ
「うわーんっ!そんなこと言ってくれるのはカカシだけだよー」
ぎゅうっとが抱きついてくる。カカシはその背中をポンポンと叩いてやる。
はとっても可愛いよ」
瞳をうるうるさせて、はカカシを見上げた。
「ん?どした?」
「カカシーッ!」
どうにもは泣き上戸らしい。ポロポロと涙が零れ落ちる。
「ハイハイ、もう泣かないの」
「・・・うう・・・ひっく」
しゃくりあげながらも、は酒を飲むのを止めない。
「オイ、!いい加減にしとけよ」
カウンター席から声をかけたのは猿飛アスマ。元々はカカシと、そしてアスマの三人で飲みに来ていたのだが、の泣き上戸と絡み上戸に耐えかね、アスマはひとりカウンター席へと避難していたのだ。
が例のごとく(?)『男にフラれた』と泣きそうな顔で人生色々へとやってきたのは夕刻・・・。
ヤケ酒につきあえと、アスマとカカシは無理やり連れてこられたのだ。
普段のと飲む酒は楽しくてアスマも好きなのだが、男にフラれたときのとは正直飲みたくはない。
それほど酒に強いわけでもないのにどんどんグラスを重ね、フラフラになるまで飲むのだ。
「うるさい、ヒゲ熊っ!飲まなきゃやってらんないのよー!」
真っ赤な顔でこちらを睨みつけてくるに、アスマは勝手にやってろとでもいうようにヒラヒラと手を振った。


それからしばらくして、静かになったかと思うと、はテーブルに突っ伏して眠ってしまっていた。
「オーイ、?寝ちゃったの〜?」
薔薇色に染まった頬をツンツンとつついてみたが、は一向に起きる気配はなく。穏やかな寝息が聞こえてくる。
のほっぺ柔らか〜い、などと楽しげなカカシを見て、アスマはため息をついた。
「オマエ、オニだな」
アスマは紫煙をくゆらしながら、の頬をつついているカカシに向かって言った。
「なんでよ?」
「・・・がフラれたのはオマエが原因だろーが」
「別にオレはなーんにもしてないよー。人聞きの悪いコト、言わないでくれる?」
すっとぼけるカカシに、アスマはため息をついた。
が男と付き合うたび、お前が相手を脅かすからいけねぇんだろうが」
「『脅かす』ってのは心外だねぇ。オレは『とどんな気持ちでつきあってるのか?』って
 優し〜く質問しただけだもん」
カカシは焼酎のロックのグラスをカラカラと振ってみせた。氷のぶつかり合う音がした。
「優しくってなぁ・・・。『里一番のエリート忍者』なんて呼ばれてるヤローに詰め寄られて、
 平気な奴がいたら、お目にかかりてぇもんだぜ」
「だってさ、が変なオトコにひっかかったら困るデショ?オレは、を狼から守ってるだけ」
「・・・」
「それに、オレにちょっと言われたくらいで諦めるような男じゃ、付き合いが浅いうちに別れた方がいいデショ」
の『2回目のデートで必ずフラれる』っていうジンクスを作ってんのはテメェだぞ、カカシ」
「へー、そんなジンクスあったんだ。知らなかったなー」
あくまでしらを切るカカシに、困ったヤツだなと、アスマはぽつりと呟いた。
が目覚めるのをしばらく待ってみたが、一向に目覚める気配はなく、を慰める会(?)はお開きとなった。
「アスマ、悪いけどお勘定立て替えておいてくれる?明日払うからさ」
「ああ、いいぜ。とっとと帰りやがれ」
眠り込んだを背に負い、カカシは楽しげな様子で帰っていった。
のおかげで酔うに酔えなかったアスマは、一人で飲みなおすことにした。
「マジで困った奴だぜ、カカシの野郎・・・」
お前が一番の狼だろうが・・・。大切すぎて、手が出せねぇクセによ。
アスマは紫煙をくゆらせつつ、が早くカカシの想いに気づけばいいのにと思った。


まんまるのお月様が夜道を行く二人を照らしていた。
はカカシの背ですっかり眠り込んでいるようだ。安心しきってもたれかかってくるの重みを感じながら、カカシはいつもよりゆっくりと歩く。
明るくてさっぱりした気性のは人気者で、いつも友人たちに囲まれている。そのためを独り占めできる時間は少なく、を背負って家路を辿るこの時間はカカシにとっては貴重なものだった。
の穏やかな寝息を聞きながら、カカシはゆっくりと歩く。

カカシとは昔から仲が良かった。

がさっぱりした気性のせいもあっただろう。異性の友達の中では、と一番仲が良かった。
――それがある日、一変した。
「カカシ、あたし、彼氏できたんだ」
「・・・彼氏?」
「うん」
ほんのりと頬を桜色に染めて恥ずかしそうに微笑むを、カカシは初めて見た。
「カカシには一番に報告しないといけないかなって」
だって一番の友達だから、とは言った。
「・・・そっか、良かったね」
「ありがと!」
自分がちゃんと受け答えをしているのが、カカシには不思議だった。
――こんなは知らない。オレにはこんな顔で微笑んだりしない。
自分の知らない微笑を、自分の知らない誰かには見せるのか・・・。
そう思うと、胸の奥がジリジリと焦げるような気がした。
『だって一番の友達だから』
その言葉は嬉しい反面、カカシを縛りつけた。
『友達以上』になりたいと思っていた自分に気づいても、今更言えるわけがなかった。
が自分のことを『友達』としてしか見ていないことは嫌といういうほどわかっている。
『一番の友達』という言葉に縛られ、カカシはそれ以上踏み出せなくなってしまった・・・。


「う・・・ん・・・?ここどこ?なんか揺れてる・・・」
「ようやくお目覚め〜?酔っ払いのお姫サマ」
「へっ?!」
カカシの背に揺られていただったが、やっと目覚めたらしい。自分がカカシに背負われていることに気づくと、慌てて背中から降りようとした。
「コラ、暴れないの!」
「だって」
「そんなに酔っ払って、自分じゃ歩けないデショ」
「・・・ごもっとも」
カカシの言う通り、到底自力で歩けそうにない。
「ごめん・・・」
「いーよ、いつものコトだし。オレとの仲デショ」
「・・・後半部分はいいとして、前半は撤回してほしいわね」
顔を見なくても、がプッとふくれっ面になっているのがわかる。カカシは笑いながら、の身体を背負い直した。
「ハイハイ。着いたら起こしてあげるから、もうちょっと寝てれば?」
「うん・・・」
まだ十分に酔いが醒めきっていないのだろう、は素直に目を閉じた。
「いつもありがと。・・・やっぱりカカシって、あたしの一番の友達だよ」
呟くような声が耳元で聞こえたかと思うと、スゥスゥと穏やかな寝息が聞こえ始めた。
カカシは小さくため息をついて、月光に照らされた夜道を往く。

・・・まだダメか。

いつになったら、オレが一番のことを大切にしているって気づいてくれるんだろう?


ま、その日がくるまで、を悪い狼から守らなきゃね。
さしずめ、あかずきんちゃんを守るハンターってトコかな?

ん?オレが狼?
――残念ながら、違うね。・・・いや、そうだったら良かったのかもしれないケド。
でもさ、ハンターの獲物があかずきんちゃんじゃない、って誰が決めた?


オレは狼じゃない。




【あとがき】
もうどなたも覚えていらっしゃらないと思いますが、むかしむかーし、アンケートをとらせて いただいたことがありまして。
「カカシ先生のイメージにあう曲を教えてください」というものだったのですが、 その時の1位がポルノグラフティの『狼』でした。
もっとカッコよく『狼』なカカシ先生にしたかったのですが、なぜだか書き終えてみると 超ヘタレなカカシ先生に・・・(汗)

意外に自分の気持ちに気づくのが遅いときってありませんか?「あ、そうだったんだ・・・」みたいな(^^;)
わたしは結構多いです(笑)自分の気持ちは、自分がいちばんよくわかってるハズなのに おかしいですよね〜?そして気づくのが遅くて、言い出せなくなってしまったり・・・。
今の関係を壊したくなくて言い出せないもどかしい気持ち、みたいなのを感じていただければと思います(^^;)
・・・しかし、さん、カカシ先生以外の彼氏は作れないってコトですよね?(笑)

最後まで読んでいただいてありがとうございました。
 2005年2月8日