color 後編




翌日のの様子を見て、紅とアンコは何があったのか理解したようだった。
「・・・ダメでした」
エヘヘと泣き笑いの表情を浮かべたを、ふたりはそっと抱きしめてくれた。
泣きすぎたせいか、目がすっかりはれぼったくなっている。
「今度、合コンしよっ!イイ男、紹介してあげるっ!」
「ありがと、アンコちゃん」
・・・」
「ありがとうございました、紅さん。短い時間だったけれど、シンデレラになった気分でした・・・」
無理やりに笑顔を作っているを見て、紅は気づかれないように小さくため息をついた。
バカなカカシ・・・。こんな可愛いを泣かすなんて。
ちょっと懲らしめてやろうかしら・・・。
紅とアンコの目があった。
「・・・(やる?)」
「・・・(モチロン!)」
こうして、木の葉の里最強のタッグが組まれたのである。


はぼんやりとしていた。
今日は客も少なく、にはそれが救いだった。
大好きな花々に囲まれているというのに、少しも華やいだ気持ちにはなれない。
子供の頃から大好きだったカカシ・・・。自分はずっとカカシをヒーローか何かのように思っていた。
けれど、カカシはヒーローなんかじゃなかった。ただの一人の男だった。
自分の子供っぽい想いは、カカシにはお見通しだったのだろう。
だから、諦めさせようとして、あんなことをしたのかもしれない・・・。
は自嘲的な笑みを浮かべた。
「子供だったのはあたし・・・。こんなんじゃ、カカシお兄ちゃんに相手にされるわけないか」
ガラスのショーケースにうつった自分の姿を見て、はため息をついた。
そこにうつっているのは冴えない、色気のない女のコ・・・。自分に紅の十分の一でも色気があったなら、カカシの態度も違っていたかもしれない。
カラン、コローン♪
「・・・いらっしゃいま・・・」
無理やりに接客用の笑みを浮かべたが振り返ると、そこに居たのはカカシだった。
「・・・カカシお兄ちゃん・・・」
いつもの忍服姿で、カカシはそこに立っていた。連れがいるのかもしれないとヒヤリとしたが、幸いにもカカシはひとりだった。
「花束作って欲しいんだけど」
ズキリと胸が痛んだ。
誰かにあげるための花束を作れだなんて酷いことを言う、とは思った。
けれど、ここでカカシに泣き顔を見せたくはなかった。はくちびるをギュッと噛み締めた。
「赤いバラでお作りします?」
「いや、今日はオレが選ぶよ」
そう言って、カカシは色とりどりの花の中からどんどん選んでいく。
カカシが選んだのは、意外にも淡いピンクのチューリップ・・・。それをメインに、さまざまな春の花を選んでいく。
どれも優しい色合いの花ばかりだった。
カカシがいつも連れている女性には相応しくない花束になりそうだった。
はそんなことを思いながら、美しい花束に仕立てていく。
「お待たせしました」
「・・・綺麗だな」
そう言って花束を受け取り、カカシは目を細めた。春の香りがする、とつぶやいた。
「ハイ」
「はい・・・?」
カカシは受け取ったばかりの花束をに向かって差し出したのだ。
がキョトンとするのも仕方がなかった。カカシはいつも店で花を買っていってくれていたけれど、それは他の女性にプレゼントするためだったからだ。
に受け取って欲しいんだ」
は促されるまま、花束を受け取った。春の花の香りに包まれる。
「紅とアンコから聞いたよ、全部・・・」
ビクリ、との身体が揺れた。かぁぁと頬に朱が昇る。
「・・・オレはもう何年も前から、を妹だなんて思っていないよ」
「え?」
額宛と口布の間からのぞく眼差しはとても優しかった。
「・・・の方こそ、オレのことを幼馴染の『お兄ちゃん』だと思ってるんだと思ってた」
「そんな・・・」
「だって、はオレのこと『カカシお兄ちゃん』って呼ぶデショ」
それは子供の頃からのクセで、とは小さな声で答えた。
「だから、幼馴染の『お兄ちゃん』をやってかなきゃ、と思ってた・・・」
けれど、突然他の男とデートすると言い出し、翌日現れたはいつもと違って、大人の女性といった雰囲気を醸しだしていた。
美しく装っているのは、自分の知らない男のため・・・。
ジリリ、と胸の奥が妬けるような気がした。
「オレじゃない男のためにオシャレしたりして、が可愛いってコトを知ってるのはオレだけでイイのに、
 とか思ったら、なんだか悔しくて、さ。だから、昨夜も無理やりあんなコトを・・・」
「!」
の頬がさらに赤くなる。昨夜のことを思い出したのだろう。
「あ〜、なんかオレ、ものすごく恥ずかしいコトを言ってるような気がするんだけど・・・」
そう言って、カカシは恥ずかしそうに頭を掻いた。は、カカシの告白を信じられないような気持ちで聞いていた。
「・・・じゃ、なんでいつも女の人と一緒にウチの店に来たの?」
それは、と、カカシはちょっと口ごもった。
「・・・に会いたかったっていうのもあるし、花を買えば店の売上にも協力できるかな〜と。
 でも、オレが毎週、花を買いに来るのもヘンでしょ?」
だからいつも女性を連れてきたのだ、と言った。
はガックリと膝の力が抜けそうだった。
カカシが女性連れで店に来るたびヤキモキしていたのに、カカシによると、それはに会うためだったという。
「・・・で?」
「『で?』」
はキョトンとして、カカシを見上げた。一方、カカシはの表情を見て、困ったなという表情を浮かべた。
「で、の気持ちは?」
「・・・っ!?」
「オレのコトなんか、もうキライになっちゃった?」
頼りなさげに聞いてくるカカシがなんだか可愛らしく思えて、は思わずプッと吹き出した。
いつもいつも自分を守ってくれたヒーロー――でも、カカシはヒーローなんかではなく、ただの一人の男だった。
子供の頃のイメージではなく、これからは等身大のカカシと向き合えそうな気がした。
「・・・キライ、じゃないです」
「じゃ、好きってコト?」
真っ赤になりながらも、はコクリと頷いた。
「・・・良かった」
ようやく微笑んだにカカシも本当にホッとしたようで、忍服のポケットの中を探って小さな包みを取り出した。
「ハイ、これ」
「?」
「開けてみて」
カサリと小さな包みを開くと、中に入っていたのは口紅だった。
「これ・・・?」
にはこの色の方が似合うかと思って」
がキャップを開けてみると、それは春らしいピンク色の口紅だった。
「綺麗な色・・・」
「気に入った?」
「うん、素敵な色ね。ありがとう、カカシお兄ちゃん」
にっこりと微笑んだだったが、カカシは気に入らなかったらしい。
「ねぇ、?その『お兄ちゃん』て呼ぶの、もうやめない?」
「え?」
「だって、もうお兄ちゃんと妹じゃないデショ」
恥ずかしそうにコクリとが頷くと、カカシは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ちょっと貸してみて」
の持つ口紅をヒョイと奪い取ると、カカシはのアゴをクイと持ち上げた。
「えっ!?」
「ハイ、口閉じて〜?はみだしちゃうデショ」
至近距離にカカシの端正な顔があって、はどこに視線をやっていいのかわからない。
カカシは真剣な面持ちで、のくちびるに色をのせていく。
「やっぱりこっちの方が似合うね
「・・・ありがとう」
頬を朱に染めて恥ずかしそうに礼を言うに、カカシはにっこりと微笑んだ。
「お礼なんてイイよ。ちょっとずつオレに返してもらうつもりだから
「・・・っ?!」
カカシの言葉を理解したのかピキッと固まっているを、カカシはクスクス笑いながら抱きしめた。


抱きしめた腕の中には春の香り・・・。

自分は春の女神を手に入れたのかもしれない、とカカシは思った。




【あとがき】
『1周年感謝企画』にご参加いただいたとらこさまのリクエスト創作です。いただいたリクエストは
 ・カカシ先生と幼馴染で、ずっと片思い中のヒロイン
 ・妹のようにしか思われていないのかと、必死で大人の女性を演じようとする
でした。
カカシ先生、出番少ない・・・(汗)さんざんお待たせした挙句、こんなのですみません!
とらこさま、リクエストありがとうございました。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。
 2005年2月20日