Merry Merry Christmas !!
「うう・・・」
「なに唸ってるのよ、ったら?」
ある日の午後、人生色々にて上忍のは机に突っ伏し、呻き声をあげていた。
見るに見かねて、同じく上忍の夕日紅が声をかけたのだ。
「ああ、紅か・・・。コレよ、コレ」
がヒラヒラと目の前で振ってみせたのは、一枚の紙切れ。
「なぁに?あら、任務の依頼書じゃない」
読んでみると、ある大名の跡取り息子の婚約披露兼クリスマスパーティーの警備の依頼であった。
「この任務なら、私も一緒だわ」
「紅もなの?」
「ええ、そうよ」
「じゃ、ここのバカ息子、知ってる?」
「バカ息子?この婚約するっていう・・・」
「ううん、違う。それはお兄さんの方。あたしの言ってるのは弟の方よ」
「いいえ、知らないわ」
「・・・とんでもないエロガキなのよ」
は『ガキ』と表現したが、と変わらないほどの年齢には達しているはずだ。
以前この大名の警備を受けたことがあったのだが、次男坊はその時を見初め、任務中ずっとしつこくつきまとっていたのだ。
直接の依頼人ではないが、そうそう邪険に扱うこともできず、は辟易したのだ。
「なにかとゆーと触りにくるのよ」
「それって、セクハラじゃないの?」
「だと思うんだけどね、一応依頼人の家族だから、そう邪険にするわけにもいかなくて・・・。
今度の任務もパーティの警備だけど、あたしにその次男坊の警備をしろだって」
「断れないの?」
「ムリでしょうね。ご指名だもん。あーあ、火影様に指名料、もっと吊り上げてもらえばよかったー」
ふぅ〜、とは深いため息をついた。
任務なら多少のことには目をつぶれると思う。しかし、決して気分のいいものではない。
今回の任務のことを考えると、どうしても憂鬱な気持ちになってしまうのだ。
「ハァ・・・。コイツもある意味、セクハラ野郎だわね」
「えー?何か言った〜?」
いつの間にやってきたのか、同じく上忍のカカシがの隣にちゃっかり陣取り、ピッタリとくっついて座っていたのだ。
「それはそうかも・・・。堂々とイチャパラなんか読まれちゃ、ね?」
「おまけにこの距離感、なにか間違ってると思わない?」
がこう言うのももっともで、カカシとの隙間は1センチもない。・・・というより、隙間のないほどピッタリ横にくっついて座っているのだ。
「なんでー?オレとの仲じゃなーい」
「・・・どんな仲だっつの!」
に邪険に扱われてもカカシはめげることなく、を構いにやってくるのだ。
最初はとまどっていただったが、そのうちに慣れてしまい、カカシがくっついてきてもなんとも思わないようになっていた。そもそも、驚きはしたものの嫌だと思ったことはなかったのだが。
「あたし、そろそろ帰るわ」
「そう?じゃあね、」
「、帰っちゃうの?!」
名残惜しそうなカカシの声などまったく無視して、はヒラヒラと手を振って行ってしまった。
「あーあ、行っちゃった・・・」
「ったく、カカシったら・・・。が好きなら好きって、ちゃんと言いなさいよ」
「んー?」
「にしたら、カカシのことなんて、イヌが懐いてるくらいにしか思ってないかもしれないわよ」
「イヌって・・・ちょっと酷くない?」
「考えてもみてよ?カカシがぴったりくっついてても、は全然嫌がってないでしょ?
少なくとも嫌われてはいない」
「うん」
「でも、男として意識されていない」
「・・・厳しいなあ、紅ってば」
「だって、普通だったら何か反応するでしょ?恥ずかしがったり、照れたりとか・・・。
でも、には全然そーゆーのはないみたいだし」
「・・・」
「ま、セクハラだと思われないだけマシ・・・とゆーか、男として見られていない分、余計に悪いのかしら?」
「酷い言われ様だね、オレ・・・」
うーん、とカカシは困ったように頭を掻いた。
「それよりさ、紅。ちょっとお願いがあるんだけど・・・」
――最悪。
は心のうちでつぶやいた。
今夜、と十数人の忍が任務についていた。大名の跡取り息子の婚約披露パーティーの会場警備である。
の隣には、例の次男坊がぴったりと寄り添っている。我が物顔での腰に手を回し、上機嫌でグラスを重ねている。はその手を振り払いたいのを必死で我慢していた。
「よく似合うな、そのドレス」
「・・・ありがとうございます」
自身、この任務のためにドレスを選んでいた(それは主に動きやすさにポイントを置かれていた)のだが、当日になってこの次男坊からにとドレスが届いたのだ。
それは真紅のシルクとレースでできており、オフショルダーのロングドレスだった。
非常に美しいドレスだったが、動きやすさという点と目立たないという点ではマイナスポイントだった。
緋色のドレスを身に纏い、ゆるく髪を結い上げたは非常に美しく、衆目を集めていた。
しかも、その隣にぴったり貼りついているのは素行のよろしくない次男坊・・・。二人がどのような関係なのか興味津々、といった感じで皆が見ていた。
アルコールが入ったせいか、次男坊はさらに馴れ馴れしくに触れてくる。
――もうダメッ!
「すみません、ちょっと失礼いたします」
「どこへ行くんだ?」
「ちょっとお化粧を直してきますわ」
はあでやかな笑みを浮かべていたが、内心ではもう我慢の限界だった。
少し外の空気でも吸えば、この苛立ちもおさまるかもしれない。そう思ったのだ。
ペアを組んでいるもう一人の上忍に目で合図する。大名一家にはそれぞれ2名ずつのチームが警護に当たっていた。
本来なら「つかず離れず」という状態で警護に当たるのだが、この次男坊の場合は特別でパーティーの間中ずっとをそばにおきたがった。
タキシード姿の上忍が近づいてきたのを確認すると、は次男坊の腕からするりと抜け出し、パーティー会場を抜け出した。
外の空気でも吸おうと、が長い廊下を歩いていると、ひとりの女性とすれ違った。
うつむき加減で歩いていたため、その顔まではわからなかったが、見事な銀色の髪が目に焼きついた。
廊下の窓から差し込む月光をうけてキラキラと輝くその美しい髪は、まるでプラチナのように見えた。
ふわりとゆるいカーブを描く長い髪が、その女性が歩を進めるたび、ゆらゆらと揺れて、銀色の滝のようだ。
・・・きれい。
その美しい髪の色は誰かを思い出させる――ヒマさえあれば自分にくっついてくる『はたけカカシ』。
里の上忍であり、また上忍師としての任務をこなす彼にヒマな時間などないと思われるのだが、気がつくといつのまにか傍にいて。
今夜はクリスマス・イブ――彼は誰と過ごしているのだろう・・・?
なぜだかチクリと胸が痛んだ。
「・・・別にどうだっていいじゃないの」
まるで自分に言い聞かせるようにポツリと呟くと、深呼吸をひとつして、はパーティ会場へと戻った。
はパーティ会場に戻ると、チームを組んでいる上忍が近づいてきた。
「どうかした?」
「アレ、見ろよ」
その視線の先に居るのは、大臣の次男坊と、それに寄り添う黒いドレスの女。
「誰?」
「わからん。いま、招待客の名簿を照会中だ」
「あら・・・?」
よくよく見てみると、さっきすれ違った女のようだ。あの銀色の髪を見間違うわけがない。
「さっきすれ違ったような気がするわ」
「そうなのか?だが・・・どうする?」
「どうするって?」
「警護だよ。あの女が傍にいるなら、お前がぴったりくっついているワケにもいかんだろう」
「そうねぇ・・・」
あたしにはその方が嬉しいけれど。
正直、あの次男坊の警護につくのはカンベンしてもらいたかった。こうして離れて警備しているほうが、どれほどいいか知れなかった。
女の笑い声が聞こえてきた。次男坊の顔はやにさがって、だらしないことこの上ない。できることなら、近寄りたくないとは思った。
とはいえ、次男坊の警護が今のの任務だ。さてどうしたものかと思案していると、別チームのメンバーが静かに近づいてきて、その耳元で小声でささやいた。
「そう・・・招待客なのね」
「ああ、怪しいところはない」
「わかったわ。ありがとう」
あの黒いドレスの女はただの招待客だった。はホッとため息をついた。
いくら気に入らない男とはいえ、守るべき対象である。自分が警護しているのに依頼人を傷つけられるなど、のプライドが許さなかった。
早く終わってくれないかしら・・・。
そんなことを思いながら、パーティー会場をぐるりと見回す。笑いさざめく紳士淑女たち・・・。特に異変はないように思えた。
「おい・・・っ!!」
「え?」
「次男坊がいないぞ!?」
「っ?!」
慌てて広いパーティ会場を見回したが、確かにその姿は消えていた。
「あの黒いドレスの女もいないわ・・・!」
やられた・・・!
は自分に腹が立った。依頼人が気に入らないなどというつまらないことで任務をおろそかにした自分に腹が立って仕方がなかった。
「なんとしても探すわよ!」
「おう!」
ふたりが次男坊を探そうと駆け出したとき、女の悲鳴が聞こえた。
「悲鳴?!」
パーティ会場を出て、悲鳴が聞こえてきた部屋へと駆け出した。ドアに手をかけた瞬間、バッと内側にドアが開いた。
「助けてっ!!」
「うわっ!」
駆けつけたの腕の中へ飛び込んできたのは、さっきの黒いドレスの女だった。
「あ、あの方が無理やり・・・!」
部屋の奥にはシャツのはだけた次男坊。そして、ドレスが破られて、白い肩が露わになった女・・・。
何があったかは想像に難くなかった。
「ま、待て!誤解だっ!俺は何も・・・!」
「何を騒いでいる?」
ドアの前に集まった野次馬をかきわけて現れたのは、この家の当主でもある大名その人だった。
「何の騒ぎだ、これは?」
「ご当主殿!」
「ち、父上!」
目に見えてうろたえた次男坊に、その父は冷たい視線で答えた。
乱れた部屋の様子に、ドレスを破られて泣いている女性――素行の悪い次男坊にずっと頭を悩ませていたが、自分の実の兄の婚約祝いの場でこのような破廉恥な行為に及ぶとは思っていなかった。
「おまえとは今日限り、親でも子でもない!二度とこの屋敷の敷居をまたぐなっ」
「父上!?」
毅然と言い放った父に、次男坊は慌ててすがりついた。
「父上、誤解ですっ!あの女の方から誘って・・・」
「見苦しいぞ!さっさと連れて行け!」
この屋敷の警備の者達が現れたかと思うと、両脇から次男坊を抱えるようにして部屋をでていった。
誤解だと次男坊は叫び続けていたが、それは無視された。
「怖い目にあわせてすまんかったの、お嬢さん」
にすがりつくようにして泣いている女性に、大名はその頭を下げた。
「この女性の面倒はわたしが」
「殿、そなたにも悪いことをしたな。おぬしの任務はこれにて終いじゃ。
すまんが、そのお嬢さんのことを頼む」
「わかりました」
は、屋敷のメイドに空いている部屋に案内してもらうと、しばらく誰も来ないように頼んだ。
「ちょっと!いつまでくっついてるのよっ」
さきほどからずっと縋りついたままの黒いドレスの女を、はベリッと引き剥がした。
「誰もこないんだから、いいかげん変化を解きなさいよ!」
先ほどまですすり泣いていたのが嘘のようにニッコリと彼女は笑った。
「あら、ヤダ。いつから気づいてたの?」
悔しいけれど、気づいたのはついさっきだった。
髪の色が似ている、と思ったのが最初だった。そして、間近で覗いたその青い瞳・・・。
同じ色だと思った。なぜか、自分が見間違うはずはないと思った。
「なんでカカシがここに居るのよっ?!」
ボワン!
白い煙が立ち昇ったかと思うと、眼前にはタキシード姿のカカシが居た。
「ねー、?パーティーに戻ろうよv」
「ハァ?何言ってんのよ?」
「だって、次男坊は勘当されてどこかへ連れていかれちゃったし、ご当主だって、
の任務は終わりって言ってたデショ」
「それはそうだけど・・・。でも、なんでカカシがここに居るのよ?ちゃんと答えて!」
「えー?だから、オレも任務なんだってば」
「任務?」
「そうそう。あの次男坊の素行がよろしくないのは結構有名でさ・・・。
依頼人は花嫁の母親だよ。自分の娘の嫁ぎ先に、あんなオトコが居たら
母親としたら心配デショ」
「だから、追い出せって・・・?」
「そーゆーことv」
ニッコリとカカシが笑う。
「あのセクハラ男のことでは苦情が多くてね。他のくの一からも苦情が出てたんだ」
「え?そうなの?」
自分以外にもあの次男坊の被害者がいたのかと、は驚いていた。
「そ。とはいえ、大名からの依頼は断れないだろ?どーしたもんかと思ってたんだけど」
「カカシがそんなこと思っても仕方な・・・」
「だってさー、オレのがセクハラなんかされちゃって、我慢できると思う?
心配でたまらなくって、紅に任務代わってくれるように頼んだんだ」
「・・・カカシも充分セクハラしてると思うけど」
ジロリとは横目でカカシを睨んだが、カカシは心外だとでもいうような顔をした。
「えー?オレのはスキンシップでしょ!」
「スキンシップ・・・?そんなのはね、自分の彼女にでもしなさいよっ」
「はオレの彼女デショv」
満面の笑みを浮かべて答えたカカシに、の顔は真っ赤になっていた。
「なっ?!何言ってるのよ?!」
「こないだ、ちゃんと告白したしー。だって、オレのこと『好き』って言ってくれたのにぃ〜」
「ハァ?」
「ヒドイー!忘れちゃったの?!」
は、慌てて記憶を探ってみたのだが・・・。
「・・・え?まさか、あのときの」
「そうだよ〜、みんなで飲みに行ったとき」
『オレ、のこと、だぁ〜い好きv』
『ハイハイ、あたしも好きですよ。ほらもう、飲みすぎだってば!』
『じゃあ、オレたち両想いだねーv』
「あ、あのときはすごく酔ってたじゃない」
それは半ば恒例となっている、上忍・特別上忍たちでの飲み会の席でのことだった。ここ最近任務が忙しく、なかなか参加できなかったが久しぶりに出席したときのことである。
ここでもまたの隣に陣取ったカカシがご機嫌な様子で杯を重ね、カカシはかなり酔っているように見えた。
その席では『好きだ』とカカシに言われたのだが、酔っ払いの戯言だと全く本気にしていなかったのだ。
「ベロンベロンに酔っ払ってたくせに」
「酔っ払ってたって、好きでもないコに告白なんかできないよ、オレは」
思いがけず真剣な声音のカカシに驚く。
「オレの手を取るか取らないか、今ここで決めてくれ」
額宛も口布もない、素顔のカカシが真っ直ぐに自分を見つめていた。その真剣な眼差しは、嘘や冗談には思えなかった。
「・・・本気なの?」
「あのねぇ・・・本気じゃなきゃ言えないデショ」
むぅとくちびるを尖らせたカカシがなんだかとても可愛く思えてしまって、はくすっと笑った。
「〜?」
「ありがと、カカシ。とっても嬉しい」
「ホントにっ?!」
はスッと手を差し出した。
「?」
「パーティーにエスコートしてくれないの?」
は悪戯っぽい笑みを浮かべた。カカシも笑ってその手を取る。
「それでは、お嬢さん、参りましょうか?」
「ええ!」
窓の外では、静かに雪が降り始めていた・・・。
【あとがき】
えー、1年半以上あたためていた(?)創作です(笑)
最初に書き始めたのは、去年のカカシ先生のお誕生日企画さまにコラボで投稿
させていただこうと思ったのが始まり(^^;)
いや〜あまりにお美しいカカ美さん(仮名)のイラストだったので、女性に変化した
カカシ先生を書いてみたくなりまして(笑)
きっとものすごくお色気たっぷりな美女なんだろうなぁ(笑)
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
2005年12月23日