いつも隣に。
「えーと、そっちの端っこの丸いのにしようかな」
「えっ!?ちょっとカカシ!いくらなんでも大きすぎじゃ・・・」
「いいの、いいの!だって、今日はオレの誕生日だもーんv」
今日はカカシの誕生日――めずらしく休みの取れたカカシは、恋人であると楽しい時間を過ごしていた。
うまいと評判の料理屋でたっぷりと秋の味覚を楽しみ、ほろ酔い気分で二人で腕を組んで街を歩く。
「・・・やっぱりあのジャケットにすれば良かったのに」
そう言うと、はあるメンズのブランドショップの前で足を止めた。ショーウィンドウには秋物のジャケットを羽織ったマネキンが飾られている。
はカカシへの誕生日プレゼントを当日まで決められず、一緒に出掛けてカカシに欲しい物を選んでもらおうと思っていたのだ。ところが、当のカカシは『欲しい物は他にあるから』と言って、一向に選ぼうとしない。
「よく似合ってたのに」
要らないというカカシに無理やりジャケットを試着させたのだが、長身でスラリとしたカカシには細身のジャケットがよく似合っていた。
「オレって、なんでも似合っちゃうんだよね〜」
「もう、カカシったら!」
少しアルコールが入っているせいか、ふたりで笑いあう。
そんなに遅い時間でないせいか、大通りを行くひとは多い。すれ違うひとたちがふたりに一瞬目を止めるのは、ふたりがあまりにも楽しげに見えるからだろう。
「カカシが決めないから、結局プレゼント買えなかったじゃないの」
くちびるを尖らせて言うに、カカシはちょっと困ったような笑みを浮かべた。
「うーん・・・欲しい物はちゃんとあるんだけどね」
「え?」
が聞き返すと、カカシはちょっと慌てたように視線をそらした。
「あ!じゃあさ、とりあえずケーキでも買おうか」
「あ・・・うん、いいけど」
ふたりは大通りを歩いて行き、偶然見つけたケーキ屋に入った。
「おいしそう〜!」
すこし遅い時間のせいかショーケースに飾られているケーキの数は少なかったけれど、どれもおいしそうだ。
「どれにする?」
「そうだなぁ・・・」
「あのチーズケーキは?」
はかなりの甘いもの好きだが、カカシは好んで甘いものを食べようとはしない。大抵カカシが選ぶのはチーズケーキで、生クリームたっぷりのイチゴショートは敬遠するのが常だ。
「チーズケーキか・・・あんまり誕生日ぽくないな」
「そうだけど、カカシは甘いのそんなに好きじゃないでしょう?」
「う〜ん・・・」
ショーケースの端から端まで見てカカシが決めたのは・・・。
「えーと、そっちの端っこの丸いのにしようかな」
「えっ!?ちょっとカカシ!いくらなんでも大きすぎじゃ・・・」
「いいの、いーの!だって、今日はオレの誕生日だもーんv」
カカシが選んだのはショートケーキではなく、丸いホールのケーキ・・・。真っ白な生クリームでコーティングされ、その上には色鮮やかなイチゴが飾られている。
それはそれはおいしそうなのだけれど、如何せん大きすぎるのだ。直径が18センチはあるだろうか。どう考えてもふたりで食べきれるサイズではない。
誕生日といえば丸いケーキだけど・・・。まぁ食べ切れなくてもいいか。
内心ではそんな風に思いながらが仕方なさそうに頷くと、カカシは店員にケーキを注文していた。
「あたしが払う!」
「いいよ、そんなの」
「だって、誕生日のひとが自分の誕生日ケーキ代を払うなんておかしいもん!」
しばらくの押し問答ののち、結局はが支払いをすることになった。白い箱に赤いリボンをかけてもらい、上機嫌でふたりはの家へと向かった。
「じゃ、電気消すね〜!」
「ハーイ」
の家のリビングのテーブルの上のケーキにはカカシの歳の数だけローソクが立てられ(スペース的にはちょっと苦しかったが)、火も全部灯され、吹き消されるのを待つばかりだ。
「ちゃんと願い事するのよ」
「あ、そっか!そうだね〜、忘れてたよ」
ローソクの炎に照らされたカカシは穏やかな笑みを浮かべていた。それを見て、はなんだかとても幸せな気持になった。
はっぴーばーすでーとぅーみぃー♪などと自分で歌いながら、ローソクの炎をカカシは吹き消した。
「お誕生日おめでとう、カカシ」
「ありがと、ちゃんv」
明かりをつけてから、テーブルを挟んでカカシの前に腰を下ろす。ケーキを切り分けようとはナイフに手を伸ばした。
「ちょっと待って、ちゃん!」
「ん?なに?」
リビングのラグの上に胡坐をかいて座っていたカカシだったが、の方へとにじり寄ってきた。
「どうかした?改まっちゃって」
ついぞカカシが正座している姿など見たことがないのだが、今はめずらしく正座をして、ひざの上に手を置いている。
「あ、あのさ・・・」
「?」
なにか言いづらそうに見えるのは気のせいだろうか。こんな風に緊張しているカカシを見るのは初めてで、は首をかしげた。
「誕生日プレンゼントに欲しい物があるんだ・・・」
「え?だったら早く言ってくれたらよかったのに!」
今日は丸一日、ショッピングモールを見て回ったのだ。カカシに似合いそうな秋物のコートや時計には目を留めたのだが、カカシは要らないと言う。
『欲しい物、見つからない?』
『う〜ん・・・』
何度尋ねてみても、カカシからはハッキリしない返事しか返ってこない。さすがにちょっとイライラしてしまったのは秘密だ。
「で、何が欲しいの?」
「・・・・・・・・・」
「・・・」
「・・・・・・・・・」
「カカシ?」
「・・・ちゃんの」
「あたしの?」
カカシはグッと拳を握り締めた。
「ちゃんの残りの人生をオレにください・・・!」
「・・・・・・・・・ハ?」
思い切って言ったのに、の反応は鈍くて。カカシは思わずガックリと倒れこみそうになった。
「あのね、ちゃん?もうちょっと反応してくれてもいいんじゃない?」
カカシが恨めしそうな目をして自分を見ているのはわかったけれど、はパチパチと目をしばたいた。
「いや、反応って言われても・・・」
「ちゃん、オレの言葉の意味わかってる?」
「え?ああ・・・なんかプロポーズみたいだな、と」
「『みたい』じゃなくて、プロポーズなの!」
「あ、そうなんだ・・・・って、え?ええーっ!?」
よくよく見てみると、なんとなくカカシの頬が赤いような気がする。
「ほ、本気で・・・?」
「冗談でこんなコト、言えません」
ちょっと照れくさそうに言うカカシを見て、カカシが本気なのだとにはわかった。カッと頬に血が昇る。
「そ、そんなので・・・いいの?」
「・・・オレが一番欲しい物だから」
「カカシ・・・」
――最初に知り合ったのはいつだったろうか。
ただの顔見知りだったのが友人になり、いつしか大切な人にかわっていった。
今日まで平穏だったわけじゃない。何度もケンカもしたし、もうダメだと思ったこともあった。
それでもふたりは一緒にいる・・・。
「ありがとう、嬉しい」
「ちゃん・・・オレも嬉しい」
カカシにギュッと抱きしめられて、もその背を抱きしめた。
「じゃあさ、予行演習しよっかv」
「予行・・・演習?」
「そそ!」
カカシはいそいそとナイフをの手に握らせ、自分もその上から手を添える。
「えーと、コレってもしかして・・・?」
「そう、ケーキカット!結婚式でやろうね〜v」
楽しげに言うカカシに、は思わず噴出したのだった。
――気がつけば、いつも隣にはあなたがいた。
友達から恋人へ、そして家族へ・・・。
ふたりの関係が変わっても、いつもあなたが隣にいますように。
【あとがき】
お久しぶりのカカシ先生でございます・・・(^^;)
もうお誕生日ネタは書けない!と思っていたのですが、当日にはちょっと遅刻でしたが
企画サイトさまへ投稿させていただきました。
結婚式のイメージはポルノグラフィティの「ジューンブライダー」みたいな感じで(笑)
丸いケーキの画像が見つけられなかったのが残念。。。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
2006年10月12日