一人の夜には
兄上の屋敷からの帰り道、俺は護衛を断って、たった一人で夜道を歩いていた。
吐く息は白く、シンと冷え切った空気は肌を突き刺すようだ。
不意に白いものがふわりと空から舞い降りてきた。
「雪か・・・」
どうりで冷えるはずだ。
俺は暗い空から舞い落ちる白い雪をぼんやりと見ていた。
『九郎さん、雪ですよ・・・!』
はしゃいだの声が聞こえたような気がした。
振り返れば、すぐそばにがいるような錯覚さえ起こしてしまいそうだ・・・。
こことは違う世界の『鎌倉』で、お前と一緒に雪を見たのはいつのことだろう?
――最初はなんて生意気な女だろうと思った。
けれど・・・共に旅をし、共に戦ううちに、俺はお前の強くてしなやかな美しさに惹かれていった。
共に負けず嫌いな性格の俺たちはぶつかりあうことも多かったけれど。
ふ、と自分の口元が緩むのがわかる。
『もう、九郎さんてば!どうしてそう意地っ張りなんですか?!』
ちょっと唇を尖らせて拗ねているお前の顔がすぐに浮かぶ。
『俺が意地っ張りだというなら、お前だってそうだろう!』
『九郎さんと一緒にしないでください!』
・・・お前との他愛ないやりとりをこうして思い出すことはできるのに、
どうしてお前はそばにいないのだろうな・・・。
――俺はこちらの世界を捨てることができなかった。
そして、お前を愛する者たちがいる世界から、お前を攫ってくることもできなかった。
・・・。
お前も俺に逢いたいと、少しでも思ってくれているか・・・?
降る雪はなにも答えず、静かに舞い落ちるばかりだった。
【あとがき】
ネオロマ企画投稿作品。
好きだけど、ほとんど書いたことない九郎ちゃん(^^;)
クリスマスイブにアップしてたんですが、もうちょっと明るい話が書けないものか・・・(涙)
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
2007年6月16日