視線の行方




なんでやねん?なんで俺やなくて、アイツなんや?アイツより俺のほうがずっとエエ男やないか・・・


「うぎゃーっ!」
廊下に張り出された期末テストの結果を見て、俺はつい叫んでしまった。まわりにいた同級生たちがクスクス笑ってる。
「お気の毒〜♪」
「ご愁傷さま!補習がんばってね」
「うるさいっちゅうねん!」
無責任なコトばっかり言いやがって。くそぉ、なんで数学だけ赤点なんやーっ!?
「どしたの、姫条くん?スゴイ声だよ」
「あっ、ちゃ〜んっ!」
俺が振返ると、そこには吃驚したような顔でちゃんが立ってた。目下、俺が一番気になる女のコ。
俺とおんなじ高校からの外部転入生で、最初は特別目立つってコでもなかったんやけど・・・。
「期末テストの結果、もう貼り出されてるんだ」
「あー、ちゃんはまた一番やったで。おめでとうさん」
「えっ、ホント?!嬉しい〜♪」
とびきりの笑顔を浮かべて、ちゃんは喜んでいた。ホンマ、かわいいよなぁ。勉強もできて、運動神経も抜群。
おまけに吹奏楽部のホープやし。そうそう、見た目もコレがまた可愛らしいんや。背伸びしてテスト結果を見ようとしている。
ちゃんもテスト結果の片隅に書かれた几帳面な文字を見つけたらしい。
「あ、数学赤点だと氷室先生の補習なんだ」
「そうなんや〜。フツーやったら3教科なんやで?俺、数学しか落としてへんのに・・・」
「氷室先生の補習かぁ・・・ちょっとうらやましいなぁ」
「う、うらやましい?!」 
「だって、氷室先生の説明ってわかりやすいじゃない?補習のときは、生徒ひとりひとりにプリント作ってくれるんだよ。
 他の教科の質問だってカンペキに答えてくれるもん」
にこにこと俺の天敵を褒めちぎるのはヤメてくれ〜!俺の苦い顔に気づいたのか、ちゃんはくすっと笑った。
「補習って夏休み初日からだよね。私も学校に来てるから一緒にお昼食べようよ?良かったらお弁当作ってくるし」
「ホ、ホンマに?!」
アカン、嬉しすぎて声裏返ってしもた。
「ホントだよ。でもちゃんと補習受けてね?」
「受ける受ける!そんなんいくらでも」
「もう調子いいんだから、姫条くんたら」
とたんに元気になった俺を見て、ちゃんはまた笑った。


そうこうしているうちに夏休みがやってきた。
ホンマやったらバリバリ働いてるはずやったのに、なんで補修なんか受けなあかんのやろ・・・。
フケてもええかと思ったけど、ちゃんと約束してもたしなぁ。
「オレ、部活あるのにさぁ〜」
隣の席で和馬がブツブツ言ってる。そりゃお前は赤点三つとったんやから自業自得や。
そやけど俺は数学1コだけなんやで?数学だけなんやで?(ここは強調しとかなアカンやろ!)
それやのになんで「補習」なんや〜ッ?!
くそーッ!ホンマ失敗したワ。なにがなんでも数学だけは落としたらアカンかったのに・・・。
教室にはほとんど見慣れた補習組のメンツばっかりやった。ナナメ前にはなんでか葉月がおるけど。
去年はなぁ、ココにちゃんもおったのになぁ・・・。
「なんでこんなにプリントがあるねん」
って、ツッコミたくなるほど、特製氷室印の補習プリントの量はハンパやなかった。俺はまだ数学だけやけど、3教科落とした和馬の悲惨な顔はちょっとした見物やったで。
とてもやないけど、俺にはヒムロッチが優しいなんて思われへん。そやけどちゃんの意見は違ってた。
「氷室先生?優しいと思うよ、私」
「そりゃ自分は氷室学級のエースやんか!学年トップでスポーツ万能、おまけに吹奏楽部の期待の星!!
 センセのお気に入り以外のなにもんでもないやんか」
「先生はえこひいきなんてしないよ。そんなのしてくれるんだったら苦労しないってば」
クスクス笑いながらちゃんは言った。ハァ〜やっぱカワイイなぁ。
「最初はなんて怖い先生にあたっちゃったんだろって思ってたんだけどね。去年赤点とったとき、補習に一緒に
 でたの覚えてる?みんなプリント終わって私だけ残されちゃって」
「あー、覚えとるよ。俺、バイトの日やってん」
「そーそー、みんな冷たいんだもん」
それからちゃんはその日のことを楽しそうに話してくれた。バリバリ文系の彼女には数学は大のニガテ科目で、担任が数学教師なんてのはサイテーな高校生活の始まりだと思ったそうだ。しかも担任はかなり怖い。
もともと他の教科は悪くない。ただ数学だけがどうにも相性が悪い。
「でね、問題が全然解けなくって。みんな帰っちゃうし、どうしようかなぁと思ってたら・・・」
ヒムロッチが一問ずつ丁寧に解説してくれたらしい。ちゃんと理解できるようになるまで、何度も何度も繰り返して。
あまりにも理解できない自分に腹を立てるんじゃないか、とちゃんが心配になったほど、何回も何回も・・・。
「それからかな、ちょっとずつ問題が解けるようになってきたの」
そう言って、ちゃんはにっこりと微笑んだ。そやけど、それって俺に微笑んでくれてるんとちゃうよな・・・?
初めは「隣のクラスにかわいいコがいる」っていうウワサを聞いたからやった。カワイイ女のコはチェックしとかなアカンやろ?
軽い気持ちで声かけてみた。ただ、それだけやったのに・・・。


「あ!」
ローカに立っとるちゃんの姿が見えた。そうか、もうすぐ休憩時間やもんな。
俺はこっそりちゃんに手を振ろうとしたけれど、ちゃんは俺を見てなんかいなかった。
ちゃんが見ていたのは・・・教壇に立つヒムロッチ。
あんだけ一緒におったら、イヤでもちゃんが好きな奴が誰かわかってしまうわ。
――ホンマ、わかりたくなかったんやけどな・・・。
ガラにもなく、ため息がでそうになる。・・・アカンアカン!なに弱気になってんのや、俺?
せっかく見つけた、本気で好きになった女のコ。本気で自分のモンにしたいと思った女のコ。
そんな大事なコを、みすみす他の男に渡すワケにはいかへん。

なぁ、ちゃん?

はよ、俺の視線にも気づいてよ。


教室の窓から見上げた空は、見事な夏色。17歳の夏はまだ始まったばかり・・・。




【あとがき】
ときめもGSおしゃれタイピング発売記念作品(←ウソです)
うう、どうしてまどかくんを幸せに書いてあげられないんだろう・・・?(汗)
ヒムロッチ←ヒロインちゃん←まどかくん、というシチュエーションが好きみたいです、管理人(笑)

管理人は一応関西圏に生息しておりますが、かなりハズレの方に生息しておりますので、
まどかくんの関西弁はちとあやしいかもしれまへん(^^;)

最後まで読んでいただいてありがとうございました。
 2004年7月3日