恋愛革命




、メシ食わせて」
「・・・うわぁっ!!」
あたしは思わずパンチを繰り出していた。


鶏肉とたまねぎを炒めているフライパンへケチャップを搾り出した。ジュワ〜と湯気が上がる。
「あー、痛え・・・」
「だーかーらー、ごめんって言ってるじゃない!」
将臣くんはテーブルに座って、あごの辺りを痛そうにさすっている。
・・・ってゆーか、眠ってる女の子の部屋に黙って入ってくるってどうなのよ!?
「将臣くんだって悪いのよ。目開けたら、いきなり目の前にいるんだもん。
 泥棒かと思うじゃないの」
昨日は夜遅くまでDVDを見ていて、休日の朝寝を楽しんでいたあたし。あったかいお布団から離れがたくて、ウトウトしていたのだ。それが、ふと何かの気配を感じて目を開けると、目の前には誰かの顔があって。
悲鳴をあげて、つい手が出てしまっても仕方がないと思わない?
「お前んちのおばさんがにメシ作ってもらえ、って言ったからさ」
「譲くんに作ってもらえばいいじゃない」
「あいつは部活に行っちまったんだよ」
「じゃ、望美ちゃん」
「お前な・・・。あいつの作ったメシ、食ったことあんのかよ?」
「・・・・・・」
将臣くんはあたしの幼馴染だ。もちろん将臣くんだけじゃなく、譲くんも、そして望美ちゃんも幼馴染だ。家族ぐるみのつきあいがあって、今日将臣くんがうちへやってきたのも、あたしのお母さんが家のカギを渡したからだった。
コンビニにお昼ゴハンを買いに行こうと家を出たところで、出掛けるところだったウチのお母さんとバッタリ出会ったらしい。
チンした冷凍ゴハンをたっぷりとフライパンの中に放り込み、木ベラでほぐしていく。
う〜ん、ちょっとケチャップが少なかったかな?
「腹減った」
「もうちょっと待っててよ」
いつの間にか将臣くんがすぐ後ろに立ってて、あたしはちょっとびっくりする。
「何食べたら、そんなにでっかくなるわけ?」
が小さいだけだろ」
将臣くんに話しかけるとき、見上げなきゃいけなくなったのはいつだっただろう。あたしだってそんなに小柄でもないと思うけど、183センチある将臣くんはやっぱり大きい。
「あ、そっちのスープにマカロニいれて」
「これか?」
「うん、そう」
今日のお昼ゴハンはチキンライスと野菜スープだ。ボリュームを出すために、スープにマカロニをいれる。たまごがあれば、オムライスにするのになぁ・・・って、たまごが全然なかったんだ。
「お、うまそうだな〜」
「味薄かったら、コショウかけて」
「いや、ちょうどいいんじゃねえか」
再放送の2時間ドラマを見ながら、ふたりでゴハンを食べる。将臣くんは、あたしの倍の量を早々に食べ終えた。
「ゴハン、少なかった?」
「いや、腹いっぱい。あ、コーヒー淹れてもいいか?」
「うん。あたしの分もお願い」
「オーケー」
勝手知ったる他人の家だ。コーヒーを淹れるのは将臣くんに任せて、あたしはお皿を洗った。
コーヒーのいい香りが漂ってくる。
「なあ、
「うん?」
お皿が二枚とスープカップがふたつ。あっというまに洗い終わる。あ、フライパン忘れてた!
「ヒマだったら、これからどっか行かねえ?メシの礼にどこでもつきあうぜ」
「んー、そうだなぁ・・・」
フライパンを洗いながら、あたしは思案する。
「えーとね、じゃ、買い物!」
「って、お前、またスーパーじゃねえだろうな?」
「ピンポーン!さっすが将臣くん、大正解です!」
うちは両親共働きなので、家のことは大抵あたしがしているのだ。今週は買い物に行くヒマがなくて、冷蔵庫はスッカラカン。たまごはないし、鶏肉は食べちゃったし、冷凍ゴハンすらない状態だ。
「今日は醤油とみりん、それからコーヒーが安かったんだよね〜♪」
「ちぇ・・・荷物持ちかよ」
「なによぅ〜?どこでもつきあうって言ったくせにー」
「へいへい、わかった、わかった」
将臣くんはぶつぶつ言いながらも、結局はあたしにつきあってくれるのだ。


「お前、いくら安いからって買い過ぎだろ」
「だって、将臣くんが一緒だと思ったら、ついつい・・・」
ドサッという音をたてて、買い物袋をキッチンの床に置く。ハァ〜、手がちぎれるかと思ったわ。
、お前、なに持ってたんだ?」
「え?」
将臣くんがあたしの手を取って、てのひらを撫でている。あたしのてのひらはビニールの持ち手が食い込んで、くっきりと赤い線が入ってしまっていた。
「え・・・と、あの・・・醤油・・・」
「んなモン、俺に持たせればいいだろ」
将臣くんの指先があたしの手のひらをそっと撫でていて、どうしてだかあたしはドキドキしていた。あたしの手をすっぽり包む将臣くんの手はとても大きくてゴツゴツしていて、男のひとの手だった。
将臣くんと最後に手をつないだのはいつだっただろう・・・?
「お前、熱あんのか?」
「え?」
「顔、赤いぜ」
コツン、とあたしの額に押し当てられたのは、将臣くんの額・・・。
「っ!?」
驚いて思わず後ろへさがったあたしを、将臣くんは不服そうな顔で睨んでいた。
「なんだよ?」
「ね、熱なんかないもんっ!」
「本当か?」
ブンブンとあたしはすごい勢いで頷いていた。
・・・ってゆーか、熱でそうだよ!
将臣くんとはずっと仲が良かったつもりだったけれど、こんな至近距離に近づいたことはなかったと思う。ふたりの間にはいつでもそれなりの空間があって、さっきみたいに手を触れたことなんてなかったし、ましてや額をくっつけるなんて・・・。
将臣くんの手があんなに大きいなんて知らなかったし、あんなに睫毛が長いなんてあたしは知らなかった。
「れ、冷凍食品、溶けちゃう」
あたしは将臣くんから視線をそらし、冷蔵庫へ買ってきた品物を片付け始めた。
・・・落ち着かない。
将臣くんと家でふたりきり、なんて、これまで何回もあったし、買い物に行く前だってずっとふたりきりだったのに。それなのに、今はなんだか胸がドキドキして落ち着かない。
「な、なに・・・?」
「別に」
将臣くんはイスに腰掛けて、あたしが冷蔵庫へ品物を片付けているのをじっと見ていた。その視線がなんだかあたしを落ち着かなくさせるのだ。
な、何か話さなきゃ・・・!
「ま、将臣くんって、その・・・人をじっと見つめるのってクセ?」
「ん?そんなに見てるか、俺?」
「こ、この前、買い物につきあってもらったじゃない?
 スーパーに行く途中で、あたしの友達に会ったでしょ?」
「・・・ああ、の同じクラスのヤツ・・・だったっけか」
「そう。次の日、学校で会ったらね、なんて言ったと思う?」
「?」
「『番犬つれてるみたいだったぞ』って」
先週・・・いや、先々週だったっけ。今日みたいに将臣くんに買い物につきあってもらって駅前のスーパーへ行く途中、あたしと同じクラスの男の子に会ったのだ。
「それに、睨まれてるみたいだった、って言ってたわよ」
その子が言ったのは『番犬つれてるみたいだったぞ』だけじゃなかった。『今にも噛みつかれそうな気がした』とも言っていた。
「そうやって、じっと見つめてるのが、睨んでるみたいに思われるんじゃない?」
沈黙がイヤで、あたしはペラペラと余計なことまでしゃべってしまう。ああ、なんだか落ち着かない。あたしは手当たり次第に冷蔵庫に物を押し込んでしまう。
「へえ・・・『番犬』ね・・・」
カタンと音がしたかと思う、将臣くんがスッと立ち上がって、あたしの方へ近づいてきた。
「ま、中(あた)らずと雖(いえど)も遠からずって感じだな」
「な、なにが?」
「『番犬』」
将臣くんが近づいてきて、あたしは冷蔵庫と将臣くんの間に挟まれてしまった。
は鈍いからな」
「し、失礼ね!あたしのどこが鈍いのよ?!」
「俺が『番犬』してるワケ、全然わかってねえだろ?」
「そ、それは・・・」
あたしはなんとなく逃げ出したくなって、横に逃れようとしたけれど、それは将臣くんの腕によって遮られた。
「俺がじっと見つめていたのはだけだ、って言ったらどうする?」
「な、何言って・・・?!」
その声音にはあたしをからかっているような雰囲気はカケラもなくて・・・。カッと頬に血が昇るのが自分でもわかる。
将臣くんがちょっと背をかがめて、あたしの顔を覗き込んでくる。
「・・・いつまでも『幼馴染』なんかやってらんねーってこと」
真っ赤になっているあたしの顔を見て、将臣くんはニヤと不敵な笑みを浮かべた。
「油断すんなよ?お前にとって、俺は『番犬』っていうより『狼』かもしれねえからな」


――将臣くんの言葉が、あたしの中に革命を起こす。




【あとがき】
ネオロマ企画投稿作品。
企画ということで初書きキャラにチャレンジした作品。
あんまり攻略していない(!)ので、よくわからないまま書いてます・・・(^^;)

最後まで読んでいただいてありがとうございました。
 2007年6月16日