masquerade 第1章




「痛っ!」
「うーん、結構深いみたいだなー」
今日は任務はなかったのだが、カカシは三人の部下の修行に付き合ってやっていた。
例のごとく『鈴取り』である。
最初の頃からは比べものにならないほど進歩したように思えるが、忍びとしてはまだまだだ。
チームワークの悪さが目立つ。結果、三人はカカシにいいように遊ばれている状態となっていた。
それでもなんとか三人は頑張っていたのだが、サクラが蔓草に足をとられ転んで怪我をしてしまった。
運悪くそこには尖った石があり、サクラは膝下をかなり深く切ってしまい、ドクドクと血が流れ出していた。
カカシは手際よく応急処置を行うと、サクラを抱き上げた。
「オマエら、今日は解散。サクラはオレが病院へ連れて行くから」
「大丈夫か、サクラ?」
「すっげぇ痛そうだってばよ」
「うん、ちょっと痛いけど、平気よ」
ナルトとサスケが心配そうにサクラを見ている。
「ハイハイ、サクラは大丈夫だから、オマエ達は帰んなさい」
「・・・わかった」
「わかったってばよ」
渋々といった風の二人を残し、カカシはサクラを抱きかかえ、木の葉病院へと急いだ。


カカシが慌てて駆け込んだのは木の葉病院。サクラのケガの具合を見た看護士が、さきに処置室へと入れてくれたのである。
「はい、今日はどうされました?・・・と、サクラちゃんじゃない」
「あ、先生!」
「ん、知り合いなの?」
「アカデミーで薬草学の先生だったんです」
どうも、とカカシが会釈をすると、彼女は『あら』と言った。細いフレームのメガネの奥の瞳が微かに興味深そうな色を浮かべていた。
「はたけ上忍ですね。お噂はかねがね・・・」
「ハァ・・・」
隣の診察台の上ではサクラが気まずそうな表情をしてモジモジしている。
やっぱ、ロクな噂じゃないワケね・・・。
カカシはやれやれと思いつつ、頭を掻いた。
「・・・かなり深く切っちゃってるわね」
テキパキと診察を行い、彼女は診断を下していく。
「さすが応急処置はカンペキですね、はたけ上忍」
「・・・ど〜も」
ちょっとくたびれた白衣を着た彼女は手際よく治療を行っていく。消毒液がしみたのか、サクラが顔をしかめた。
「ちょっとガマンしてね、サクラちゃん。すぐ済むから」
「はい」
サクラの患部の上に手をかざすと、さっきまでにこやかな笑みを浮かべていた医師の顔が真剣なものに変わる。
「・・・!」
手のひらから零れる青白い光・・・。それはサクラの傷口をどんどん塞いでいく。
「・・・はい、終わり」
「すごいっ!!」
サクラは、うっすらとピンク色の傷跡が残るのみとなった患部を驚いたように見つめていた。
「これは掌仙術というのよ。とても正確なチャクラコントロールが必要なの」
「へぇ〜」
「サクラちゃんなら、もうちょっと修行すれば使えるようになるかもよ?」
「え、ホントに?」
「そうだな〜、サクラのチャクラコントロールは正確だから、医療忍者向きかもね」
「カカシ先生もそう思うの?」
「ああ、あのふたりより、オマエのチャクラコントロールのレベルは上だしな。
 同じチームに掌仙術を使える仲間がいるというのは心強いしね」
「ふーん」
「でも、ま、もうちょっとスタミナが必要かもね」
カカシはサクラにそう言ってから、くるりと踵を返すと、白衣の女医に礼を言った。
「ほら、オマエもお礼を言いなさい」
「ありがとうございました、先生」
どういたしまして、と彼女は柔らかな笑みを浮かべた。


一人で帰れるというサクラを見送り、カカシはアカデミーの資料室へと向かった。
扉を開けると、ちょっと黴臭いような埃っぽいような、書物の匂いがする。人の気配はなく、ガランとした室内でカカシは古い資料をひっくり返す。
この資料室へくるのは何度目だろう・・・?
「・・・見つかるワケがない、か」
あの日――黒猫が消えたあの日から、カカシは何度も資料室を訪れていた。


目が覚めると、自分は病院のベッドに寝かされていた。
誰に聞いても、黒猫の行方はわからなかった。焦れたカカシは直接三代目にもたずねてみたが、三代目は黙って首を横に振るだけだった。
ならば、せめてその名前だけでも知りたい・・・。
カカシはそう願ったが、それすらも知ることはできなかった――暗部であるが故に。
おそらくは自分を助けて、黒猫は死んだのだろう・・・。そうであるならば尚更、その名だけでも知りたかった。
だが、暗部の資料など手に入るわけもなく、膨大なアカデミーの卒業生の資料からたった一人――しかも名前も顔すらもわからない人物――を探すなど、雲をつかむような話だった。
それでも、カカシはなぜか諦めることができず、こうしてヒマさえあれば資料室へと足を運んでいるのであった。
先ほどの女医の掌仙術を見て、黒猫が掌仙術が得意だったことをカカシは思い出していた。
「医療系か・・・」
カカシは古い資料を手に取ると、窓際の席を陣取り、パラパラとめくった。




【あとがき】
前回のアップは去年の11月・・・の割には全くお話が進んでおりません(^^;)
うう・・・(汗)

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
 2005年3月6日