Say You Love Me 第2話
「えーと、あと、まながつおの西京漬け、お願いします」
「はい、かしこまりました」
女将の落ち着いた声が響く。大将の華麗な包丁さばきに感心しながら、はビールのグラスを傾けた。
ここはのお気に入りの小料理屋である。多少お値段が高めだが料理は絶品なので、週に一回程度訪れる常連客となっていた。
今日は2時間ばかり残業をして、家で夕食を作る気にもなれず、ふらりと一人でやってきたのだ。
料理を何品か頼み、ビールを飲む。仕事の疲れが癒されていくようだ。
仕事に疲れたオジサンみたいだなぁ・・・。
昔の自分ならひとりで食事をするのは苦手だったが、今ではすっかり平気になってしまったと、は苦笑した。
同期入社の女の子たちは転職やら結婚やらで退職してしまい、いつのまにか女子社員では一番の古株になっていた。
『お局サマ』になっているつもりはないが、状況的には『お局サマ』と呼ばれてもおかしくはなく、後輩達からは頼りにされている反面、何事もキッチリしないと気がすまないは少々煙たがられているのも事実であった。
最近新入社員の面倒を見るように上司に命令され、普段よりも仕事が増えてしまい、少し疲れ気味だった。
疲れたときには、おいしいモノを食べる。プロの作る料理に舌鼓をうち、軽いアルコールでストレスを解消していた。
「えーと、まながつおの西京漬け」
「すみません、カカシさん。今日はもう終わっちゃったんですよー」
「えー、そうなのー?ん〜、じゃどうしようかなー」
「魚なら、ほかにも何種類かありますよ」
カウンターの、ひとつ空いた左側の席から残念そうな声が聞こえてきて、は思わずそちらを見てしまった。
そこに居たのは木の葉の里の忍者だった。緑色のベストを着ているところをみると、中忍以上なのだろう。
しかし、その風体は怪しいことこの上なかった。口元はすっぽりと布で覆われていて、こちらからではよくわからないが額宛で顔が隠されているらしい。
「うう・・・食べたかったなぁ」
「今日は数が少なかったんでねぇ。すみません」
その怪しい風体の忍者はお品書きを見つめて、何を注文しようかかなり悩んでいるようだった。
・・・そんなに食べたかったのかしら?
自分は何気なく注文しただけだし、『怪しい』と思った彼は、店主夫妻とも顔なじみらしい。は思い切って言ってみた。
「女将さん、あたしの注文したまながつお、こっちのお兄さんにあげて。代わりにこの『黒豚の味噌漬』焼いてくれます?」
「あ、ハイ・・・。でも、よろしいんですか?」
「よく考えたら、お昼もお魚食べたんです。そっちのお兄さんさえ良かったらどうぞ」
そう言って、はにっこりと微笑んだ。
「あ、どーも・・・。じゃ遠慮なく」
そう言ってこちらを向いた忍者の半眼は額宛に隠されていたけれど、わずかにのぞいた右目は眠そうに見えた。
「どうぞ、どうぞ」
こんなぽや〜んとした雰囲気のヒトでも忍者なのねぇ、などと思ったことはおくびにも出さず、はにっこりと答えた。
残った料理に箸をつけ、グラスを手に取ったがすっかり空になってしまっていた。残りのビールを注ごうとすると、隣からスッとビール瓶が差し出された。
「おねーさん、良かったらさっきのお礼」
「!」
いつの間に席を詰めたのか、気がつくと隣にさっきの忍者が座っていた。
「あら、気にしなくていいのに」
「ま、そう言わずにー」
相変わらず左眼は額宛で隠されていたが、口布を下ろした彼は端正な顔立ちで、を驚かせた。
「ね?」
ほろ酔い気分も手伝って、はグラスを差し出した。相手は木の葉の里の忍者だし、ぽや〜んとした雰囲気に警戒心を抱かなかったらしい。
「おねーさんもよく来てるよね、ココ」
「え?なんで知ってるの?」
「んー、オレも結構来るし」
女将さんをちらりと見ると、うんうんと頷いていた。
「カカシさんにもご贔屓にしていただいてるんですよ」
「うん、ココの魚はおいしいしv」
「そうねー、大将のお料理、おいしいもん」
少し離れた場所で魚を焼いていた大将が軽く頭をさげていた。
「オレは、カカシ。よろしくねー」
「あたしは、」
これが二人の出会いだった。
【あとがき】
ド、ドリームなのでしょうか?!(汗)
まながつおはおいしいですよねー!(←さりげなく話題を変えてみたりして(笑))
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
2004年4月19日