Say You Love Me 第5話
定時のチャイムの音を聞いて、はホッとした。部長が出かけるまでの午前中はなんとかやりすごし、午後も仕事が手につかなかったはもう仕事をするのは諦めて、古い書類整理などをやっていた。
今日はもう帰ろう・・・。なんだか、考えすぎて疲れちゃった。
仕事に集中しなければ、と何度も思うのだが、ふとした拍子にカカシのことを思い出してしまうのだ。
シャワーを浴びてくると言って自分に背を向けたカカシ――その広い背中には無数の古傷があって・・・。
おかしな話だが、その広い背中を見たとき、『ああ、カカシくんは男のヒトなんだ』とは思ったのだ。
自分よりいくつか年下のカカシは、まるで『弟』のような存在で。
それが――今朝(昨夜?)の出来事で一変してしまった。
今度カカシに会ったとき、どんな顔をすればいいのか、にはわからなかった。そして、ふと、あの店に行かなければカカシに逢うことはない、と気づいたのだ。
毎週毎週約束したわけでもないのに、同じようにあの店で逢って、食事をしながら他愛もない話をする。
ただそれだけのことが、自分にとってどれだけ楽しみだったのかようやく気づいたのだ。
たくさんの仕事を抱え、そうそういつも同じ時刻に帰れるとは限らない。しかし、はなんとか時間をやりくりして、毎週店に通っていた。
来ないかもしれない相手を待つ――しかし、カカシはいつもフラリと現れた。
反対にが遅れたときは、カカシが待っていてくれた。
それがとても嬉しかった。週に一度、カカシに逢えるのが嬉しかった。
「――あたしって、バカかも」
自分の気持ちに、今頃になって気づくなんて・・・。でも、やっぱり、どんな顔をしてカカシくんに逢えばいいのかわからない。
「さーん!」
ぼんやりと帰り支度をしていたがふと気づくと、後ろに後輩たちが立っていた。
「え、なぁに?」
「今晩、飲みに行きましょうよ〜」
「せっかく金曜日なんですし。部長もいないし、チャンスじゃないですか!」
「でも、今日は・・・」
「さ、行きますよ!いいワイン・バー、見つけたんですっ」
の断りの言葉は無視され、両脇を後輩にガッチリとつかまれ、まさに連行状態である。
あれよあれよと言う間に、会社の通用口まで引っ張っていかれ、会社の前の大通りまできてしまった。
「ちょっと待って!今日は飲みに行く気分じゃ・・・」
「彼氏とケンカしちゃったんでしょー?なんでも相談に乗りますよ!ねっ?」
「そうですよー!しゃべっちゃえば楽になりますよ」
「か、彼氏とケンカなんかしてないってば」
ちょっと赤くなって口ごもったに、後輩たちは『やっぱり』と目配せしあった。
こうなったら、やっぱり聞き出すしかない!
後輩たちがを半ば強引に飲み屋街に連れて行こうとすると、後ろから間延びした声がきこえた。
「ケンカなんかしてないよー」
「えっ?!」
その声にパッと全員が振り返ると、そこには、が一番逢いたくて、そして一番逢いたくない木の葉の里の忍者がぼんやりと立っていた。
「カカシくんっ?!」
「え・・・カカシくんって・・・もしかして、あの『写輪眼のカカシ』?!」
里には珍しい銀色の髪、斜めに巻かれた額宛、そして片手にイチャパラ・・・それはまさしく、あの『写輪眼のカカシ』であった。
「さんの彼氏って、『写輪眼のカカシ』さんだったんですかーっ?!」
きゃーっ、と女の子たちから悲鳴があがる。
「『写輪眼のカカシ』って、里一番のエリート、とかっていう忍者?」
後輩の女の子から「何言ってんですか!」と睨まれ、は思わず後ずさってしまった。
「そうですよ!この里で知らない人間なんて居ないはずです!エリート中のエリート、里で一番の忍者です!」
あのぼんやりしたカカシくんが『里一番のエリート忍者』だって?嘘でしょ・・・?!
「悪いけど、さんを借りていっていいかな?」
「ええ、そりゃもう、どうぞどうぞ!」
後輩たちは一転、まだ状況の飲み込めていないの背を押し、カカシの方へ追いやった。
「ありがと」
「いえいえ!さん、月曜日に絶対お話きかせてくださいね。お二人の馴れ初めとかー!」
後輩の黄色い声にハッと我に返ったは、今度はカカシにガッチリと腕をつかまれていることに気づいた。
「じゃ、行こっか。さんv」
「ちょ・・・」
の声など聞こえていないのか(それとも無視されたのか)、カカシはの腕をつかんで、里の中を歩き出した。
【あとがき】
ようやくカカシくん登場・・・もうすこしお付き合いくださいませ。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
2004年4月21日