カカシくんの甘い週末
ピピピッ・・・ピピピッ!
「・・・ん・・・」
今日はお休みなんだから、まだもうちょっと寝坊しても大丈夫・・・。
そんなことを思いながら、は枕もとの目覚ましを止めようと暖かなベッドの中から腕を伸ばした。
「・・・っ!?」
ぬっと背後から現れたのは、もう一本の腕。の手が目覚ましを止めるよりも早く、その腕が伸びてスイッチを押したかと思うと、またベッドの中へと戻っていく。
がそっと首をひねって後ろを振り返ってみると、そこには柔らかそうな銀色のフカフカしたモノがあった。
「・・・(ビックリさせないでよね)」
は、ハァ〜と深いため息をついた。どうりで寝苦しかったハズだ。
の腰にはガッチリとカカシの両腕が回され、後ろから抱っこされている状態である。
の首筋に顔を埋めるようにして、カカシは眠っているようだ。
女の独り暮らしということで戸締りは厳重にしているつもりだが、この年下の恋人には通用しないらしい。
多忙な彼女の恋人は、時々こうして突然ベッドの中にいたりするのだ。そして、いつもを後ろから抱きしめるようにして眠っている。
最初はカカシを起こさないようにベッドを抜け出そうとしただったが、忍者であるカカシを起こさずに抜けだそうなどというのは所詮ムリな話で。
「起きるから離してよ、カカシくん」
「・・・え〜、今日はお休みデショ」
カカシの腕の中から逃れようとジタバタと暴れてみるが、結果的にはその抱擁をさらに強くしただけだった。
「お洗濯とかお掃除とかしなくちゃいけないの!」
「・・・」
「ほら早く!」
にせかされ、カカシはむぅとくちびるを尖らせた。これ以上駄々をこねても(?)ムダだと思ったのか、大人しくカカシはの腰に回した手をほどいた。
「カカシくん、今日は任務はないの?」
「うーんと、アイツらとDクラスの任務」
ようやくベッドから抜け出すことに成功し、は暖かなカーディガンを羽織ろうとしているところだった。
「えっ?!もう9時過ぎてるわよ!」
「ん?いいの、いーの」
そう言って、モゾモゾと暖かな布団にもぐりこもうとしていたカカシだったが、はガシッと布団をつかんだ。
「ち、遅刻しちゃうわよっ」
「待つのも任務のウチってね〜。んじゃ、オヤスミ〜」
「ダメよっ」
はバッと布団を剥ぎ取ると、カカシをたたき起こした。
「寒いよー、さん」
往生際悪くカカシはベッドの中で丸まっている。
「ダメ!本気で怒るわよ」
・・・もう怒ってるし。
せっかくの休日(だけだが)、愛しい恋人とイチャイチャしたいと思っていたカカシ・・・。だが、カカシの野望(?)は儚くも当の恋人によって打ち砕かれたようだ。
「ふぁ〜、ねむ・・・」
仕方なくカカシは起き上がると、眠そうに目をこすった。
「朝ゴハン、どうする?」
「ん、コーヒーだけ飲みたいな」
「わかった!」
バタバタとは慌ててキッチンへと行ってしまった。ひとりポツンとベッドに残されたカカシは、ひどくつまらなそうだ。
「ちぇー、あんなコトとかそんなコトとか、いろんなコトしたかったのになぁ〜」
眠るを優しいキスで起こしたりして・・・。もちろん、キスだけで済ませるつもりは毛頭なかったが。
マジメな社会人であるにとっては、遅刻などもってのほか。遅れているカカシよりも、なぜだかの方があせっているくらいである。
不機嫌そうな恋人の様子にも気づかず、はキッチンへ行ってしまった。
「何してるの!コーヒー、冷めちゃうわよ!」
「ハーイ」
キッチンから呼ぶの声にカカシは渋々立ち上がり、脱ぎ捨ててあったベストに手を伸ばした。
「今日は何時くらいに終わりそう?」
「夕方には終わると思うケド」
狭い玄関先での会話である。カカシはもっとのんびりと過ごしたいと思っていたのだが、に急きたてられるようにコーヒーを飲み干し、玄関へと追いやられたのである。
「じゃ、一緒に夕飯食べる?」
「ウン!」
さっきまでの不機嫌な様子はどこへやら、すっかり機嫌が直ったらしいカカシに、はクスリと笑みを浮かべた。
「じゃあ、ゴハンの用意して待ってるね。遅くなるようなら連絡してね」
「わかった!じゃ、行ってくるね」
「いってらっしゃい」
と、明るい声でカカシを送り出そうとしたものの、当のカカシはじっとこちらを見つめているままだ。
「どうしたの、カカシくん?」
「『いってらっしゃい』のチュウは?」
「・・・!?」
いつのまにか口布もおろして、準備バッチリのカカシがにこにことを見下ろしている。期待のこもった瞳で見つめられ、はジリ・・・と思わず一歩後ろに下がってしまった。
「ほ、本気・・・?」
「チュウしてくれなきゃ、任務に行かないも〜ん」
ね?と詰め寄られ、は壁際に追い詰められた。かぁと頬に血が昇る。
この年下の恋人は、どうしても『チュウ』して欲しいらしい。うう・・・と迷いつつも、これ以上遅刻させるワケにもいかない。
散々迷った挙句、は背伸びをして、カカシの頬に掠めるようなキスをした。
「えー、それだけ〜?」
「・・・っ!?は、早く行きなさいーっ!!」
が真っ赤になって叫んだ。カカシはクスッと笑って両手を伸ばし、赤くなったの頬を包み込むとしっかりとくちびるを重ねた。
「・・・んんっ?!」
「んじゃ、いってきま〜すv」
「コ、コラーッ!」
こうしてカカシはご機嫌な状態で任務へと赴き、部下達に気持ち悪がられたのであった・・・。
なんとかカカシを送り出したは洗濯と掃除を早々に済ませ、買い物に出かけることにした。
寒い日が続いていたが、今日は風もなくポカポカと日差しの暖かい日であった。
夕食の買出しもしなきゃ、などと考えながら、フラフラと商店街を歩いていたの目に、衣料品の量販店の看板が目に入った。
カカシくんにパジャマでも買ってあげようかな・・・。
今朝起きた時、確かカカシはいつもの忍服だった。もちろんベストは脱いでいたけれど。
忙しい彼女の恋人は、の部屋でゆっくりと過ごすことは少なかった。もちろん、泊まりにやってくることも数少ない。
昨夜のように、目覚めると隣にいることはしばしばあったが・・・。
パジャマなんか用意したら、『泊まりにきてv』って言ってるみたいかしら・・・?
う・・・それもちょっと恥ずかしいかも(汗)でも、ウチに居るときくらい、のんびりして欲しいし・・・。
ちょっと迷いつつもは店に入り、暖かそうなスウェットの上下を手に取った。着替えも必要かと思い、フリースのパーカーに長袖のシャツ、ソックスに下着も何枚か選んだ。
結構な荷物になったのだが、は買い物を続け、結局家に戻ったのは夕方になっていた。
「おかえりなさい!」
「・・・」(←感動のあまり、声も出ない)
カチャリと音をたてて開かれたドアの向こう、エプロン姿のが自分を出迎えてくれた。
「どうしたの、カカシくん?・・・オーイ?」
「(ハッ!)た、ただいま、さん」
口布があって心底良かったと思ったカカシであった。今、自分の顔はとんでもなくニヤけているに違いない!
そして、が何気なく言ったに違いないであろう『おかえりなさい』という言葉・・・。そのたった一言が、カカシをとんでもなく幸せな気持ちにしてくれる。
「今日はね、ぶり大根作ってみたの!」
「うん、イイ匂いがする〜」
煮物の良い香りが漂っている。ぐぅ〜っとカカシの腹の虫が鳴きだした。思わず、はプッと吹き出した。
「もうすぐゴハンできるけど、先にお風呂入る?ゴハンが先の方がいい?」
「おなか空いてるから、ゴハンが先の方がイイなぁ〜」
「了解!じゃ、着替えてきたら?」
「着替え?」
「あ、あのね、タンスの3段目に着替えが入ってるから!」
首をかしげたカカシにはちょっと恥ずかしそうに答えて、そのままキッチンへと戻ってしまった。
カカシは不思議に思いつつも、手を洗ってから、の言うとおりにタンスの引き出しを開けてみた。
「・・・オレのために用意してくれたのかな」
引き出しを開けると、暖かそうなパーカーやらソックスやら着替えが一式入っていた。
他にもスウェットや下着がきちんとたたまれて収納されている。
「エヘヘ・・・」
里支給の忍服をパパッと脱ぎ捨て、が用意してくれた服に着替える。うーん、と伸びをして、首をコキコキと鳴らしてみる。
の部屋はカカシにとってはとても居心地のいい場所で、ホッと緊張の解ける数少ない場所だ。
が『リラックスできるように』と自分を気遣って、着替えを準備してくれたことがとても嬉しい。
「カカシくん、ゴハンできたよー」
「ハーイ!」
今日はとんでもなくイイ日だ、とカカシは上機嫌だった。
の作ったぶり大根はなかなかのもので、カカシは何度もおかわりをした。
「後片付け、手伝うよ」
「いいの!カカシくんは向こうで休んでて」
「でも・・・」
「ホラホラ!あとでお茶もっていくから」
半ば追いやられるようにリビングヘと背を押されたカカシは、大人しくソファに腰をおろした。
リビングのソファからは、キッチンで後片付けをするの姿を見ることができる。
――うわぁ〜、なんか新婚さんみたいv
口布も額宛もとってしまった自分の顔は、さぞかし緩みきっていることだろう。それにさっきの玄関先での会話も、
『お風呂にする?ゴハンにする?・・・それとも、あ・た・し?』(←最後の選択肢は言っていない)
などと勝手に脳内変換され、カカシはすっかり妄想世界へ旅立ってしまっていた。
「お茶、入っ・・・」
後片付けが終わって食後のお茶を持ってきただったが、ポーッとした顔でソファに座ってるカカシに驚いたらしい。
「・・・カカシくん?」
「えっ?!うわっ!」
ぼんやりしていたカカシだったが、ようやくに気づいたらしい。
「どうかした?」
きょとんとした顔でこちらを見ているに、カカシはちょっと焦り気味である。慌てて表情を引き締める。
「い、いや、なんでもないデス!」
「そぉ?」
不思議そうなだったが、テーブルに紅茶ののったトレイを置くと、カカシの隣へ腰を下ろした。
「・・・さんてさぁ・・・」
「ん?」
アールグレイの香りを幸せそうな顔をして楽しんでいるの横顔を見ながら、カカシがポツリとつぶやいた。
「さんて、オレを甘やかす天才だよね」
「へ?甘やかす?」
「そう・・・。オレばっかり、さんに甘えてるような気がするんだよね・・・」
自分が着ているこの服も、客用のお茶碗と湯のみからいつのまにかカカシ専用のものに変わっていたり・・・。
が自分を気遣ってくれる行為自体はものすごく嬉しい。
――けれど、それはの負担にはなっていないのだろうか・・・?
「そうかな〜?あたしだって、カカシくんに甘えてるような気がするけど」
「どのへんが?」
「・・・どのへん、って聞かれてもこまっちゃうけど」
はちょっと困ったような笑みを浮かべていたが、隣に座るカカシにコトンと頭をもたせかけた。
「こんな感じ、かな?」
肩にかかる、愛しいヒトの重み・・・。ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「カカシくんといると、とっても楽しい気持ちになれるの。だから・・・」
恥ずかしそうに小さな声で答えたが愛しくて、カカシは思わずを自分のひざの上に抱き上げた。
「うわっ?!カ、カカシくんっ!?」
「・・・もっとオレに甘えてよ」
柔らかなの身体をギュッと抱きしめる。急に抱き上げられて驚いたせいか強張っていただったが、クタリとその身体から力が抜けて、カカシにもたれかかってくる。
「・・・好きだ・・・・・・」
カカシは柔らかなのくちびるを盗む。その柔らかで甘いくちびるはカカシを魅了してやまない。
「あ・・・ダメ・・・」
カカシの胸を押して身体を離そうとしただったが、当然カカシがそんなことを許すはずもなく。
キスされて潤んだ瞳と上気した頬が、さらにカカシに火をつける。
「さんて、簡単にオレの理性を吹き飛ばしてくれるよね」
「そんなこと・・・っ」
しっかりとその身体を抱きしめ、耳元で甘く囁く。柔らかな耳朶にそっと歯を立てられて、ビクリとの身体が震えた。
「・・・もうスイッチ入っちゃったv」
「えっ?!」
お尻の下にカカシの身体の変化を感じ取ったはこれ以上ないというくらい真っ赤になり、慌てて腰を浮かそうとしたが、カカシの両腕がしっかりと身体に回されていて立ち上がることができない。
「あ、あのっ!お風呂・・・そう、お風呂入らなきゃ!ね、だから離し・・・」
「・・・オレが後で入れてあげる。髪も洗ってあげる」
の抵抗をキスで封じ込め、朱色に染まった耳元に甘く囁く。
「今夜はオレがさんを甘えさせてあげる・・・」
カカシに散々『甘やかされた』(←おそらく意見の相違があると思われるが)は、隣でグッスリ眠っている。
その穏やかな寝顔を見つめながら、カカシはふと思う。
自分をこんな幸せな気持ちにしてくれるのがなら、途轍もなく不安な気持ちにさせるのもまたなのだと・・・。
いつかが自分の元から去ってしまったら、自分はどうなる・・・?
考えても詮無いことだとは思うが、幸せな気持ちになればなるほど、自分はそれを失うことを恐れてしまう。
「ん・・・」
寝返りを打ったがぼんやりと目を開けた。
「カカシくん、眠れないの?」
「ううん、そうじゃないよ・・・」
トロンと半分眠ったようなを愛しく思いつつ、その寝乱れた髪をかきあげてやる。
「大丈夫だから、もう眠って」
「うん・・・」
すぐに穏やかな寝息が聞こえてきた。その柔らかな身体をそっと抱きしめ、カカシも目を閉じた。
朝目覚めて、一番にあなたの顔を見る・・・。
朝目覚めて、一番にあなたの声を聞く・・・。
――その権利は、誰にも譲るつもりはない。
さて、明日はどうやってあなたを目覚めさせようか・・・?
【あとがき】
約1ヶ月ぶりの更新がこんなのですみませんっ!
いえね、ちょっと甘えさせて欲しいなぁ〜なんて思ったダケなんです(^^;)
アレ?甘やかされているのはカカシくんか・・・(笑)
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
2005年1月30日