さくら
「うわー!ナニコレ?!」
オレが思わず叫んでしまったのも仕方がないと思う。
それほど広くないリビングには衣装ケースが積み上げられ、足の踏み場もないほど衣類が散らかっている。
「オーイ?どこにい・・・」
おっと!あやうくオレのお姫さまを踏んづけてしまうとこだった。
――オレのお姫さまは畳んだセーターを枕にして、スヤスヤ眠っていた。
意外に任務が早く片付いて、オレは約束の時間よりもずいぶん早く彼女の家へと向かっていた。
彼女の家へ行く途中には桜の並木道があって、この時期見事な花を咲かせている。
ぽっかりと空いたこの時間、彼女を誘ってお花見に行くのもいいかもしれない。
今年はまだ一回も行っていないし、天気予報では明日から雨らしいし・・・。
オレはそんなコトを思いながら、うららかな春の光を楽しみながら歩いていた。
「疲れて寝ちゃった、ってトコかな」
ベランダにはたくさんの洗濯物がヒラヒラと風に待っている。最近急に暖かくなってきたから、衣替えをしようとしていたのだろう。
オレが寝顔を覗き込んでも全然気づく気配もなく、気持ちよさげな寝息が聞こえてくる。
このところ忙しい日々を送っていて疲れ気味のはずなのに、張り切りすぎたのだろう。
「せっかくお花見に行こうと思ってたのにー」
でも、まぁ無理矢理起こすのも可哀相だ。それにこのままじゃ、今夜眠る場所もない。
「仕方ないなぁ」
たっぷり服の詰まった衣装ケースは、彼女には重いだろう。オレが居る時にすればいいのにさ。
オレが任務で疲れてるだろうから、と気をつかってるのかもしれないが。
「・・・頑張り過ぎデショ」
暖かな日差しの差し込むリビングで、子供みたいに無邪気な寝顔で眠っている彼女。
オレはなんとなく微笑ましい気持ちになりながら、彼女を起こさないように静かに片付けを始めた。
そして、たまたま取り出した衣装ケースの中に、一枚のワンピースを見つけた。
「あー、なんか懐かしいな」
一年前の今頃、初めてのデートに彼女が着ていたのがこのワンピース・・・。
満開の桜の木の下で、ちょっと恥ずかしそうな笑みを浮かべてオレを待っていてくれた。
あれからもう一年・・・。月日が経つのは本当に早いな、と思う。
彼女が目覚めたら、お花見に誘ってみようか。このワンピースを着てもらって・・・。
来年の桜も、再来年の桜も、ずっとずっと彼女と見れたらいいなと思う。
・・・なんだかちょっと照れくさくて、本人には言えないけどさ。
「早く目覚ましてよ、お姫さま」
うららかな春の日の午後、オレはのんびりと彼女が目覚めるのを待つのだった。
【あとがき】
ちなみにカカシ先生です・・・。
2005年4月10日