「ったく、このお方はヒトサマの家を何だと思ってるんでしょうね〜?」
爪先でツンツンとつついてみたけれど、まったく反応ナシ。あー、もうっ!幸せそうな顔しちゃって!
彼――ハヤテはとっても幸せそうな寝顔で、あたしんちのリビングを占領していた。
お昼前にフラリとやってきたかと思うと、あたしのお昼ご飯のチキンライスを横取りして(冷凍ゴハンを追加して慌てて量を増やした)、しかも
「オムライスじゃないんですか?ゴホ」
とか文句言っちゃって・・・。たまごが切れてたんだから仕方ないでしょ!
お昼を食べ終わったかと思うと、リビングのラグの上にコロンと転がって熟睡・・・。
確かにさ、このリビングは快適よ?大きな南向きの窓が気に入って借りたんだもん。
けど、久しぶりに恋人の家に来たっていうのに、その態度は何?!
窓からは春の暖かな日差し――部屋はポカポカと暖かくて、ついつい眠くなっちゃう。
特別上忍なんていう忙しい仕事なのはわかるんだけど・・・。すぐ寝ちゃうなんてつまんないじゃないの!
食器を洗い終えたあたしは、ハヤテが寝ているそばに座った。
「こんなに寝てるのに、クマは消えないんだよね〜」
ハヤテはひざを曲げて、くるんと小さく丸まって眠ってる。その様子は、なんとなく猫を思わせる。
猫にたとえるなら、ハヤテはきっと真っ黒な猫。
つやつやの毛並みで、そう、瞳は金色だ。お月さまみたいにまん丸の瞳。
あたしもハヤテの隣にコロンと寝転がってみた。
「あー、いい気持ち」
ハヤテの穏やかな寝息につられて、いつのまにかあたしも眠ってしまっていた・・・。


ふと目が覚めた。
「目が覚めましたか?」
「・・・ん・・・」
昼間の暖かさがウソのように、部屋の空気はひんやりしていた。それでもあたしが寒くないのはハヤテがブランケットをかけていてくれたからだ。
「どうかしましたか?」
「ううん」
部屋の中は蒼い月の光で満ちていた。
ハヤテは蒼い月明かりに照らされながら、窓の向こうの月を眺めていた。
「ハヤテ」
「はい?」
あたしが伸ばした手を、ハヤテはそっと握ってくれた。その手は、とても温かかった。
「まだ寝るつもりですか?」
「ハヤテには言われたくないよ」
ハヤテはクスクス笑いながら、あたしの髪をなでてくれた。
「ハヤテ」
「なんですか?」
「・・・なんでもない」
「おかしなひとですね」
あたしはハヤテの手をしっかりと握り締めて、もう一度目をとじた。


月明かりに照らされたハヤテがとても綺麗で、とても儚くて・・・。
いつかあたしの目の前から消えてしまうのかもしれない。ふと、そんな不安が胸をよぎった。
だけど、あたしの手を包んでいるハヤテの手はとても温かい。
その手の温かさが、あたしを安心させてくれた。
――この手を、あたしは決して離さない。
あたしはそんなことを思いながら、睡魔に身を任せた。




【あとがき】
 2005年4月2日